ビートルズ『アビイ・ロード』50周年 | BRITISH MADE

BM RECORDS TOKYOへようこそ ビートルズ『アビイ・ロード』50周年

2019.10.11

名盤『アビイ・ロード』50周年エディションがリリース

10月11日より映画『イエスタデイ』が公開されます。
監督は『トレインスポッティング』や『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル(007シリーズ最新作の途中降板は残念でした)。主演はヒメーシュ・パデルです。売れないシンガーソングライターが、“自分以外の人がビートルズの存在を知らない”世界で、ビートルズの曲を歌い、賞賛され、喜びや驚き、葛藤を経験していくというユニークなシノプシスです。

このタイミングの中、ビートルズの1969年の傑作、『アビイ・ロード』の50周年記念エディションがリリースされました。形態は、4枚組スーパー・デラックス・エディション、2CDデラックス、1CD、3LPデラックス・エディション、1LP、1LPカラー及びデジタル、ストリーミングです。映画『イエスタデイ』の中にも、『アビイ・ロード』の曲が登場するようです。
アビイ・ロード
この50周年記念エディションには、プロデューサーのジャイルズ・マーティンとミキシング・エンジニアのサム・オケルによって、アルバムに収録された17曲がステレオ、ハイレゾ・ステレオ、5.1サラウンド、そしてドルビー・アトモスでミキシングし直されています。そこまで肥えた耳の持ち主ではない自分にも、今日的な音の粒立ちが感じられます。
さらには、そのほとんどが未公開だった23曲分のセッション・レコーディングの音源が収録されています。『アビイ・ロード』で、オフィシャルな形のリミックスや追加のセッション等を収録した拡張版が発売されるのは、これが初ということです。ビートルズに限らず、こうしたテイクって、後々になって発見されたり公式にリリースされたりしていますよね。正直、自分はブートレグ(海賊盤)を含め、オフィシャルでリリースされた決定テイク以外は、あまり興味のないタイプです。でも、ビートルズとなるとちょっと話は別というか。「カム・トゥゲザー」の別テイクをはじめ、メンバーの息遣いやスタジオでのライブっぽさ、ラフな感じが伝わってくるこのエディションは、やはりかなりどきどきするものがありますね。
「カム・トゥゲザー」ではじまるこの『アビイ・ロード』は、事実上空中分解したゲット・バック・セッションの後に、解散が危惧される状況のなかで「最後にきちんとアルバムを」と制作されたアルバムとして有名です。翌1970年にラストアルバム、『レット・イット・ビー』がリリースされますが、その多くは、ゲット・バック・セッションにおいて録音されたものだったため、この『アビイ・ロード』が4人の実質的なラストセッションのアルバムだったと言われています。
『アビイ・ロード』は1969年9月26日にリリース後、イギリスのチャートで17週連続1位、アメリカのビルボードチャートでは11週連続1位に君臨した大ヒットアルバムです。曲調はブルースとロックを基調に、様々なジャンルが取り入れられ、機材ではモーグ・シンセサイザーとレスリーユニットが特徴的に使われています。
本作の制作を正式に始めた3日後にジョン・レノンはプラスティック・オノ・バンド名義で初のソロ・シングル「平和を我等に」を発売しています。「サムシング」のビデオにはジョン&ヨーコをはじめ、メンバーそれぞれがパートナー(妻)と一緒にいるというコンセプトです。この曲のシングルがリリースされた時点ですでにバンドは休止状態だったため、メンバーが一緒に映っているシーンは皆無です。ドラマチックな雰囲気ですが、すでに終わりへと向かっていた当時のバンドの状況が垣間見える内容とも言えます。
メンバー間ではA面とB面の評価が分かれているそうですが、直近の来日公演でも見られた通り、ポール・マッカートニーはソロ・コンサートにおいて、今でもB面終盤の「ゴールデン・スランバー~キャリー・ザット・ウェイト~ジ・エンド」メドレーをライブのクライマックスで演奏していますね。「ヒア・カムズ・サン」ももちろん名曲ですが、「ヘルター・スケルター」然り、本作の「カム・トゥゲザー」や「アイ・ウォント・ユー」、「ゴールデン・スランバー」あたりを聴くと、やっぱりビートルズってヘヴィロックというかハードロックの祖でもあるんだよなあと最敬礼したくなります。
今回の50周年記念エディションのブックレットには、現在77歳のポールがテキストを寄稿しています。こちらは「読んでのお楽しみ」ですが、短いながらも当時の様子が明瞭簡潔に伝わってくる筆致にぐっとさせられました。特に同文でポールが用いていた“スリリング”と“魔法”は、本作の魅力を端的に表現している言葉だと感じられます。

レコーディングが行われ、ポールのアイデアであまりにも有名なカバー写真が撮られたアビイ・ロードスタジオは、いまも現役のスタジオとして機能しています。そして来年2020年はジョンの生誕80周年です。今一度、この名盤のマジックに触れてみるのはいかがでしょうか。それではまた!

Text by Uchida Masaki

関連リンク
ビートルズ。ストーンズ。それぞれの50周年記念盤
ポール・マッカートニーの新作


plofile
内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

内田 正樹さんの
記事一覧はこちら

同じカテゴリの最新記事