Hitomi Kiltmaker が解説!キルトの歴史と作り方 | BRITISH MADE

スコティッシュ・タータンをめぐる旅 Hitomi Kiltmaker が解説!キルトの歴史と作り方

2022.09.08

Hitomi Kiltmaker が解説!キルトの歴史と作り方野村さんが初めて制作した男性のキルト

スコットランドのタータンに魅了され、本場スコットランドまで作り方を学びに行った野村瞳さんへのインタビューシリーズ。前回の記事では、キルトとの出会いから、帰国後、Hitomi Kiltmaker(ヒトミ・キルトメーカー)を立ち上げるまでの物語を聞かせていただきました。第2回目となる今回は、そもそも「キルト」とは何かについてお話をうかがい、その魅力を掘り下げていただきました。

野村 瞳 Hitomi Nomura
スコットランドの首都エディンバラにあるキルトメーカー「Scotclans」でキルトの伝統的な手縫いの縫製を学び、伝統衣装キルトを制作する作家。スコットランドで古来から伝わる「スコティッシュ・タータン」を日本でも多くの人に知ってもらおうと Hitomi Kiltmaker を創立。さらに、タータンやキルトを通じて、スコットランドの魅力も配信している。

よく間違えられる「キルト」と「タータン」


ータータンの魅力は何ですか。

野村:見た目が鮮やかで、柄ひとつひとつに意味があるところでしょうか。タータンが持つ歴史的背景も素敵ですね。さまざまなタータンが集結すると、その光景に感動します。

ーブリティッシュメイドのイベントでキルトスカートを販売される時も、バリエーションにこだわっていらっしゃいましたよね。

野村:そうですね。やっぱりいくつかの柄が並んでこそ、迫力が出るというか。初めてスコットランドのテイラーを訪れた時も、いろんな柄のキルトが並んでいて、その迫力と豪華さに感動したんです。柄が押し寄せてくるようでした。

ー日本だと、「キルト」と「タータン」はごちゃ混ぜにされやすいかなと思います。キルトとタータンの違いを改めて教えてください。

野村:シンプルに説明すると「タータン」は「柄」を指し、「キルト」は「伝統衣装」を指します。キルトに使われる柄がタータンです。日本の伝統衣装である着物に例えるなら、着物がキルトで、着物の柄がタータンです。
キルトを作る野村さん

野村:キルトやタータンを初めて知った方には、確かにこの2つが何を指すのか混乱されるかもしれませんね。私の場合、キルトは作っていますが、タータンは作っていません。タータンデザイナーがいて、その方たちがデザインしたタータンがスコットランドのタータン協会に登録されます。私たちキルトメーカーはそれらのタータンを使ってキルトを作ります。


キルトの元祖はハイランダーが身につけていた毛布


ータータンデザイナーという方がいるんですね!

野村:いろんなタータンが日々デザインされているみたいですよ。私のようにキルトを作る人はキルトメーカーといい、スコットランドにたくさんいます。キルトメーカーはテイラーに所属して、テイラーが受けた仕事を請け負ったり、個人でオーダーを受けて制作する人たちもいます。

キルトは主にスコットランド人の男性が着用する伝統衣装です。スカートと形は似ていますが、スカートと呼んではダメで、キルトはキルトと呼び、基本的には男性が、結婚式など公式行事の際に着用します。女性だからキルトを着れないわけではなく、例えば、スコットランドを訪れると必ず耳にするバグパイプという楽器を演奏するバグパイパーと呼ばれる方々の中にはキルトを着た女性がいらっしゃいますし、スコットランドの踊り「ハイランドダンス」を踊られる方は皆さん、ハイランドダンサーズキルトというのを着ます。

キルトの由来の話になりますが、スコットランド北部をハイランド地方と呼び、そこに住んでいた人々のことをハイランダーと呼びます。その人たちは羊の毛を格子柄に編んだ大きな1枚の毛布をぐるっと巻いて着ていました。

ハイランダーが大きな毛布を着用するデモンストレーション。当時からウエストの後ろ側にプリーツを折って着ていた

ー1枚の毛布が洋服になりましたね!

野村:毛布を地面に広げ、真ん中より下の生地を使ってプリーツを織り、横幅を調整します。ベルトを使って、毛布を腰に巻きつけると、現在のキルトととても似た形の衣装ができあがります。真ん中より上の生地は、動きやすいように肩に縛りつけたり、雨風の強い日にはポンチョのように体をくるっと覆い寒さを凌いだそうです。これをグレイト・キルトもしくはベルテッド・プレードと呼んでいます。

就寝時は毛布をそのまま寝具として利用し寝ていたそうです。ウールは保温性、保湿性に優れているので、このように暖を取っていたようです。その後、このベルトで巻いた下の部分だけが残って、現代のキルトになったということです。

ーなるほど。元来スカートとして作られたわけではないから、キルトはキルトなんですね。

野村:そうですね。キルトのことを知らない方がテイラーを訪ねてきて、「スカート」って呼ぶと、テイラーのおじちゃんたちは「キルトって呼んでね!」といつも言っていました(笑)


キルトの作り方とプリーツの数


ーキルトの作り方はどれも同じですか。正装として着るものと違いはあるのでしょうか。

野村:はい。軍隊には軍隊用のプリーツの折り方があります。ボックスプリーツといって、ボックス型にプリーツが入っています。普通のキルトはボックス型ではなく、いたってシンプルです。また、ハイランドダンサー用は、ウエストの高さを2インチ上に作ったり、お尻のカーブを強く作ったりします。基本的にベースは同じですが、本当に細かい点で、プリーツの折り方と、形の作り方が微妙に異なります。

ハイランドダンサーのキルトスカートはウエスト部分が2インチ高く作られる

ープリーツの数など流行はありますか。

野村:流行はないですが、男性用のキルトだと生地を8ヤード(約732cm)使用すると決められているので、プリーツの数はだいたい40前後になります。ただ、色んな体型の方がいらっしゃるので、一概には言えません。ご依頼された方のウエストサイズと、タータンの柄によって、プリーツの数、プリーツのサイズが決まるので、完全にオーダーメイドでしか作れません。8ヤードも使うとけっこう重たいんですよ。

女性用はだいたい5ヤード(約457cm)で作るんですが、プリーツの数は20前後になります。お客さまの腰の細さやタータンによって変わってきます。タータンの柄合わせをしながらプリーツを織っていき、作ったプリーツの数をウエストサイズで割ってプリーツの幅を決定します。

ー自分のウエストとタータンの柄によってプリーツの数が変わるんですか。自分のキルトのプリーツも数えてみたくなります。

野村:けっこうしんどいのはミリタリーキルトを作るときです。プリーツの数も多いですし、もう一段階プリーツごと折ってボックスプリーツを作っていくので、ミリタリーキルトがやはり一番時間がかかりますね。その次に時間がかかるのが男性用のキルトです。

プリーツを作っていく細かな工程


ーキルト一枚あたりにかかる制作時間はどれくらいですか。

野村:例えば1日8時間制作するとして、丸5〜6日ぐらいは欲しいです。

ーそんなにかかるんですね!それを考えると、野村さんが作るキルトの価格には企業努力が感じられます。

野村:できる限りは。スコットランドで購入されるのと大きな差がない価格に抑えています。時間がかかる作業でありながら、あまりお給料が良くないので、イギリスでもキルトメーカーは絶滅危惧職種ランキングに入っているそうです。繊維産業は後継者がいないという問題もあります。イギリスも日本も伝統工芸に関わる人々は同じ状況なのかなと思いますね。


スコットランドの暮らしに身近な羊とウール


ーキルトの生地の素材は何ですか。

野村:キルトはウール100%のものがほとんどです。でも、高額なので気軽には買えません。手頃なものだとポリエステル素材が混ざったポリウールや、その他化学素材で作られている安価なキルトがあり、スコットランドでも販売しています。ただし、手縫いではなく、マシンソーイングがほとんどです。

ーウール100%でないといけないという決まりはないんですね。

野村:ウール100%でなければキルトと呼べないといった決まりはないと思いますが、地元のキルトメーカーさんたちは、やはりその辺りとてもこだわりの強い方が多いです。キルトはウール100%生地を使用すべき、8ヤード使用していないキルトはキルトとは呼べない、などとおっしゃっているのを耳にしたことがあります。ただ、中にはそういったのを気にせず革新的なデザインで新しい型のキルトを作るキルトメーカーさんもいたり、着る人作る人それぞれの主観でキルトを楽しんでいいのかなと私は思います。

エディンバラ・ヤーン・フェスティバル


ーイギリスといえばブリティッシュウールですが、現地ではどれくらい生活に馴染んでいますか。

野村:もちろんブリティッシュウールは生活に密着した素材のように感じます。スコットランドの田舎を旅行すると、おじいちゃんがツイード素材の帽子をかぶって散歩している姿などよく見ました。

「エディンバラ・ヤーン・フェスティバル」というイベントに行ったことがあるんですが、英国中のブリティッシュウールを扱っているフェスティバルでして、各地方で飼育されている羊の種類の毛のサンプルを触ることができたり、毛糸を購入することができます。いろいろな毛糸やクラフト素材が出展されていて、例えば、ある毛糸屋さんは「この花で染めた糸、この草で染めた糸」みたいな説明をしてくれました。

また、会場には編み物やクラフト好きが大集合していて、お買い物を楽しんだあとは、会場の大広場に集まって、紅茶を片手におしゃべりしながら編み物を楽しんでいるんです。ものづくりが大好きなイギリス人の楽しい時間を垣間見たような、とても楽しい体験でした。

飛び込み競技のトーマス・デーリー選手


ーイギリスのオリンピック選手で、観戦中に編み物をしていて話題になった人もいましたよね。編み物が本当に身近なんだと感じました。

野村:それは同感です(笑)飛び込みのトーマス・デーリー選手ですよね。編み物や何か作ることが身近だなんて、すごい素敵って思ったのを思い出しました。

ースコットランドでは羊はたくさん見れますか。

野村:電車に乗ればそこら中に、あのモコモコしたのがいます。春になると子羊がたくさん生まれるので、ラムちゃんたちが大人の羊に混ざってぴょんぴょん跳ねる可愛い姿が見られます。なかなか振り向いてはくれないので、写真を撮るのが難しいです。

日本では羊を見かける機会があまりありませんでしたから、羊を見かけるたびに「可愛い、可愛い」という私に対して、友だちはよく「日本人にとったら羊はカワイイかもしれないけど、私たちにとったら、あれはオイシイのよ」と残酷なことを言っていました(笑)

ー残酷な話つづきで恐縮ですが、イギリスでは羊をどうやって食べるんですか。

野村:シェパーズパイとか、シチューとか、ステーキも美味しかったです。ラムはたくさんスーパーに売っていて、確かに柔らかくて美味しかったです!

ちなみに、キルトで使われるウールはニュージーランド産のウールなんですよ。暖かいところの羊ちゃんのウールで作られています。生地はスコットランドやイングランドの工場で織られています。

日本の羊の話になりますが、尾州(びしゅう)ウールに興味があります。愛知県一宮市を中心に、岐阜県羽鳥市などを含む一帯が尾州エリアなのですが、古くから織機を持っている工場があり、日本にもウールを作る産地と文化がちゃんとあって素晴らしいなと。イタリア、イギリス、日本が世界三大ウール産地といわれていて、日本であれば尾州といわれています。

ただ、尾州も文化を継承する人が減っており、どうやって次の世代に繋いでいくか大変苦労されているようです。尾州もイギリスと通じるところがあるなと、勉強になりました。10月ぐらいに「ひつじサミット尾州」というイベントがあり、若い方がいろいろな企画をして尾州ウールを盛り上げようとされています。愛知県に行く機会があれば、日本にもウールの産地があるということで、訪れてみてはいかがでしょうか!



次回はインタビュー最終回。
目にも鮮やかなスコティッシュ・タータンの魅力を掘り下げます。


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