SHOTENGAI (商店街)とDELLI | BRITISH MADE

Food For Thought SHOTENGAI (商店街)とDELLI

2022.06.28

皆さま、ご無沙汰しておりました。コロナ禍で長い間取材を休ませて頂いていたのですが、ようやく満をじしての復活です。今後はレストランの紹介も続けながら、食にまつわるトレンドなど若干幅をひろげて伝えさせて頂きたいと思いますので是非宜しくお願い致します!
© Aaron Hettey SHOTENGAIの様子

その第一弾になるのですが、自分自身の経験をもとにした題材になります。ひょんなことから、去年開催された東京オンピック2021にあわせて競技期間中の3週間、週末のみ、注目される新興再開発地域キングスクロスでマーケットを企画・運営することになった話です。去年のことなので、どのタイミングのロックダウンだったかは覚えていないのですが、段階的に起こったロックダウンの合間に延期されていた東京オリンピックがあるから、キングスクロス地区の一角にあるLOWER STABLE STREET (ローワー・ステーブル・ストリート)でオリンピックの間のみイギリス中に点在する日本のコンテンツをキュレーションしてくれないかな?とキングスクロスからお願いされはじめたのがきっかけでした。マーケットの経験もないのですが、長く在住している日本人としては当然やらない訳にはいかないだろうということで名前もその場で思い立った名称『SHOTENGAI』(商店街)でいくことに!

ロンドン LOWER STABLE STREET (ローワー・ステーブル・ストリート) マーケット SHOTENGAI
ロンドン LOWER STABLE STREET (ローワー・ステーブル・ストリート) マーケット SHOTENGAI
© John Sturrock SHOTENGAIの様子

当日はフランス人監督ジュリアン・ファロによる伝説的64年日本代表のバレーボールチームを再訪したドキュメンタリー映画『The Witches of the Orient(東洋の魔女)』を一般無償上映したりと、日本のカルチャー好きと日本食好き、ロックダウン明けが良い具合にシンクして、多くの来場者で賑やかになったのが嬉しかったですね。その延長線上で、今年に入り続投の打診が入り、2022年度は4月〜12月まで第3週金〜日曜日に開催することになりました。毎月一度の定例SHOTENGAIとして約2ヶ月に一度、10−12程度の異なるベンダーを集め、衣食住を提案。2022年度は、日本コンテンツだけではなくアジア全土ということで、アジア系のベンダーを集めてキュレーションするコンセプトとなっています。

ロンドンを長い間御無沙汰している人は、キングスクロスと聞くと物騒な印象をもつ人が大半だろう。併設するセントパンクラス駅にユーロスターが就航するようになってから特に、国鉄、地下鉄も乗り入れるトランスポートのハブとしての強みを活かしたロンドンの看板となるような再復興プロジェクトが近年進められてきた地区だ。

キングスクロス再開発キングスクロス周辺
大型商業施設「COAL DROPS YARD」大型商業施設「COAL DROPS YARD」

セントラルセントマーチン芸術大学の誘致からCOAL DROPS YARDという名称の大型商業施設の立ち上げ、主にインディペンデント形態のお店や飲食業態を積極的に招致するなど、多くの人がここら辺り一角キングスクロスエリアを集合体として『ナレッジ・クォーター』と呼ぶ。大英図書館、大英博物館、GOOGLE、META、UNIVERSAL MUSIC、ガーディアン紙などがオフィスを構えるなど優れた知識が集約されたエリアがその名称の由来である。特に、近年英国はより起業家精神に溢れており、それを支援したり、紹介したり紐解いたりする雑誌や動きが顕著である。英『COURIER MAGAZINE』はその代表格といえる。その起業家精神が顕著に垣間見られるのは、雑誌業界だけでなく飲食業界もそうである。

特に、ロックダウンの影響で営業停止に追いやられた飲食業界の業務ピボット力や適応力は目を見張るものがある。オンラインとオフライン、顧客データ管理からPOSまでシームレスなオムニチャネル化を提案する『SLERP.』やデリバリーサービスのボトムアップなど、今や好きなレストランやカフェからのデリバリーが当たり前にできるようになった。この流れもあり、よりSHOTENGAIのベンダーのようにお店を構えていなくても特徴のあるフードや愛情のこもった料理を提供できる人の実力を発揮できる場所や機会が増えてきている。需要と供給が合致してそれを食べたいと思う人が多いのも今のロンドンの大きな傾向なのだろう。

SHOTENGAI 6月17日〜19日は下記のベンダーが登場してくれた。日本のスイーツから自転車、ガーデニング用品、ステーショナリー、陶器やライフスタイルグッズ、アジア全般のフードカルチャーを掘り下げるZINESまで多様多種のラインアップ。

AUN
MIKI MESHI
TOKYO BAKERY
TOKYO BIKE
NISHURA EAST
NIWAKI
PICK STORE
FATBOY ZINE
HATO STORE
DELLI

色々な人が参画してくれるのは、皆似たような共通意識が芽生えているから、みている方向性も皆似ている。今月は2022年2月に立ち上がったアプリベースの企業『DELLI』がマーケットに参加してくれた。DELLIは今ロンドンで注目され始めている飲食マーケットプレイスのアプリである。ファッションのリセールアプリ『Depop』の設立者(*近年、ETSYに売却)が、趣向が細分化してきているフードへの意識やトレンドを組み入れ、如何にこの動きをサポートし体言化=コミュニティ化していけるか?という視点で起業されたアプリになる。
ロンドン LOWER STABLE STREET (ローワー・ステーブル・ストリート) マーケット SHOTENGAIDELLI出店の様子

設立者のサイモンは、インディペンデントや個人レベルの需要をもとにコミュニティをつくり、個々の起業家精神を触発するビジネスで成功をしてきた人である。前述のDepopも一緒の概念だし、個人のプロデュースによる食のマーケットプレイスとしてはじまったのがDELLIというアプリである。ただ単に、小さなキッチンや食に目覚めて起業家した料理好きな人の料理を売るだけでなく、彼らのバックストーリーやコンセプトを伝えることができるアプリ。

コロナ禍によりコミュニティやローカルネットワークの大切さに気づいた人も多いだろう。起業家精神とオフライン活動が疎遠になっていたこともありコミュニティ作りそれへの帰属がよりプレミアム化されている流れに合致して、利用者も急上昇中である。スモールバッチで作られるチョコレートからソースが肝のアジアンホット・調味料ソース、高品質のオリーブオイルから人気の発酵食品、ケフィアやコンブチャ、パイからダンプリングまで、レストランクオリテから家庭キッチンで作られるものまで、作り手と買い手をマッチさせるアプリである。

Hungry Buddhas shot by @laurengharris for @delli.market
Chubby Dumplings shot by Liam Hart

過去2年間でレストラン業界を取り囲む状況は一変した。週2−3日頻度でのオフィス勤務が定着していて、一等地のハイストリートにあるレストランから疎遠になり、皆の焦点はより住んでいる近くのローカル、ましてや自宅のキッチンに向いている。コロナ災と世界をとりまく環境問題でより緊迫してきているサステナビリティ意識の向上。よりコミュニティとしての横の繋がりと自給自足やMOTTAINAI精神への興味の拡大に合致しているアイデアだ。イーストロンドンを拠点に始まり、今後はオペレーションエリアも他ロンドン市内エリアに拡張していく予定だ。今後も、彼らの動向と新しく参画してくるベンダーの振る舞うフードには興味津々である。

最後になるが、7月15日〜17日のSHOTENGAIは主に東南アジア、中国系のベンダーが登場する。是非、近くに来ることがあればお立ち寄りください。お待ちしております!

SHOTENGAI – LOWER STABLE STREET
住所: LOWER STABLE STREET, COAL DROPS YARD, LONDON, N1C 4LW
URL: https://www.kingscross.co.uk/event/shotengai-market
開催日:7月15日〜17日、8月19日〜21日、9月16日〜18日、10月14日〜16日、11月18日〜20日、12月16日〜18日
最寄り駅:地下鉄KINGS CROSS駅 約徒歩5分〜8分程
Text&Photo by Tatsuo Hino


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日野 達雄

日野達雄

英国在住歴19年のメディア/ファッションコンサルタント。
英スタイル雑誌の出身で英/日の雑誌にも寄稿をするライターでありながら、音楽、ファッション、フード、写真と様々なジャンルでのコンサルティング業務に携わる。

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