占星術研究家の鏡リュウジさんインタビュー 「イギリスは文化に重層性があって〝豊か〟ですよね」 | BRITISH MADE

My Favourite Journals 占星術研究家の鏡リュウジさんインタビュー 「イギリスは文化に重層性があって〝豊か〟ですよね」

2018.03.29

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今回、お話をうかがったのは占星術研究家・翻訳家の鏡リュウジさんです。大学生の頃から英国占星術協会の年次大会を目的にして渡英するなどで、イギリスの滞在経験が豊富であるといいます。これまでに占星術、魔法、タロットといったフィールドで仕事をされてきた中でイギリスについて感じてきたことを語っていただきました。
20180329_kagamiryuji_003 取材時に鏡さんが着用されていたジャケットは、ロンドンで購入したもの。ベージュのヘリンボーン地にバーガンディのウインドーペーンがプラスされています。イギリスらしいディテールのひとつとされるチェンジポケットはバーガンディのベルベット素材でパイピングされていて、バーガンディ地に白い星柄が入った裏地付き。遊び心がたっぷりと感じられる1着でした。

数多くの渡英を経て、イギリスものに囲まれている現在

ー 鏡さんは占星術研究家であり、翻訳家でもあるということですが、お仕事柄、渡英されることは多いのでしょうか。

「英国占星術協会をはじめとした学会での発表があったり、その他に小さなものでもアカデミックな集まりがあったり、向こうの研究者と会ったりで、毎年3回はイギリスに行っています。僕の場合、どこまでが仕事でどこからが趣味だか分からないようなところもありましてね。もう半年くらいイギリスに行かないでいると、とても恋しくなってくるんです(笑)。過去にはイギリスのマジカルな場所、レジェンダリーな場所をめぐるツアーのガイド役に何年も連続で選ばれたりもしていて、これまでに50〜60回は渡英していると思います」
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ー お召しになっているジャケットはどちらで購入されたのでしょうか。

「このジャケットはカムデンタウンで見つけました。サルトリア系ではなくてデザイナーズ系のスーツブランドのものです。4年くらい前でしたでしょうか、蚤の市で知られるカムデンマーケットの中に、このブランドのお店がポツンとありまして。非常にイギリスらしいと思いました。サヴィルロウにクラシックな仕立て屋さんがある一方で、カムデンにはこういう新進気鋭のブランドが店を構えているというね……。かつてはミニクーパーに乗っていましたし、普段の仕事机にはイギリスのアンティークテーブルを使っていて、家ではスージー・クーパーのカップで紅茶を飲んでいたりもして、気がつくと日本にいてもイギリスのものに囲まれた生活をしているかも知れません」
20180329_kagamiryuji_005 もともと、タロットカードはイタリアの貴族が楽しむゲームとして発祥したのだといいます。それがフランスやイギリスに伝わって占いとして発展を遂げました。現在、世界で広く使われているタロットカードは1909年にイギリスで生まれたもの。古いタロットカードを美術的な視点でコレクションしている人もいるそうです。

イギリスは魔法の国で、占星術の本場でもある!?

ー 鏡さんが専門にしている占星術や魔法というフィールドにおいてのイギリスは、どういった国になるのでしょうか。

「ハリー・ポッターシリーズをご存知の方は多いかと思いますけど、イギリスというのは魔法の国なんですよね。かつて、魔術というのは最先端の学問でした。オカルトという言葉はどうかと言うと、もともとは〝秘密〟という意味です。何の秘密かというと、自然界の秘密。自然界の秘密を知ることがオカルティズムであって、本来はアカデミックなものなんです。エリザベス1世に寵愛されたジョン・ディー博士は数学者であり、占星術師であり、錬金術師でした。占星術というのは星の学問です。宇宙は、すなわち私たちが生きている世界はどうなっているかについて解き明かそうとする学問がアストロロジー(占星術)だったんです。現存している最古の占星術協会は、イギリスにあります。そういう歴史を積み重ねてきた上で、さまざまなファンタジーの伝承を行なってきたのがイギリスという国になります」
20180329_kagamiryuji_002 鏡さんは、コスメ関係もイギリスのものを使用することが多いそうです。空港で購入したというボタニクスのヘア&ボディウォッシュは、イギリスの王立植物園とコラボしたアイテム(写真左)。こういった生活用品にまで心惹かれるストーリーが潜んでいます。また、イギリスにおいてはアロマセラピーの伝統にも占星術が深く根ざしているそうです。


イギリス人と日本人(特に京都人)の精神性について

ー これまでに50〜60回ほど渡英されていても、まだまだイギリスに対する興味は尽きないといった感じでしょうか。

「イギリスは文化に重層性があって、いろいろと掘り起こしていくと本当に面白いんですよね。他にも自分がイギリスに行っていて面白いと思うのは、日本人と似ているところがあるなと感じるところ。自分は出身が京都なんですけど、特に京都と似ているように思うんです。ストレートにものを言わずに、オブラートに包み込んで話をするあたりとか。〝そろそろ帰って〟とは言わずに、〝ぶぶ漬けでもどうどす?〟と言ってみる感覚に近いというか(笑)。両者に共通しているのは、歴史があって、それを誇りに思っているところ。それと京都人は抹茶、イギリス人は紅茶ですけど、作法を大事にしながらお茶を嗜んだりもしますよね。よく向こうの学界でイギリス人に会うと〝私たちがブックエンドだ〟という話もします。イギリスと日本はユーラシア大陸の端と端に位置していますから、そのことをブックエンドにたとえて、〝私たちが大きな大陸を支えているんだ〟という冗談を言い合っているわけです(笑)」
20180329_kagamiryuji_004 こちらは、イギリスで毎年出版されている星の運行表。タロット占いにタロットカードが必要であるように、占星術には星の運行表が不可欠となります。鏡さんは毎年、わざわざイギリスまで出かけて買い求めているとのことです。

イギリスが〝豊か〟であるのはどういうわけだろう

ー これまでに鏡さんが感じてこられた〝イギリスの良さ〟はいろいろあると思うのですが、その中でも特に印象深いのはどういったところでしょうか。

「景気はすごく悪いはずなんですけど、〝豊か〟であるような気がしますね。ちゃんと〝豊かに暮らしている〟ように思います。何でだろう、あんなに物価が高いのに(笑)。物価が高くても、大英博物館やヴィクトリア&アルバート博物館などのミュージアムは入場無料だったりします。そこもすごいと思いますし、やはり、伝統的なものと最先端なものの両方があるというバランス感覚がもたらす豊かさなのでしょうか。イギリスにおいてはホーンテッドであること、つまり幽霊屋敷であるという噂が立った方が不動産としての価値が上がったりする場合もあります。幾多の時を積み重ねてきた建物として逆に評価されるということです。ロンドンではホーンテッドな建物がワンブロックにひとつはあると言っていいでしょう(笑)。それだけ歴史と由緒のある建物が多いということです。幽霊が出る場所を歩きながら案内してくれるゴーストウォークというツアーのようなものもあって、ホーンテッドであることがひとつのエンターテイメントにもなっています。そういうところにも心の豊かさというか、文化の奥行きみたいなものを感じてしまいますね」 


Text by Kiyoto Kuniryo / 國領磨人
Photo by Kenishi Sasaki / 佐々木謙一


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鏡リュウジ

占星術研究家、翻訳家。
国際基督教大学卒、同大学院修士課程修了。
10代のころより占星術、タロットなどをフィールドにさまざまなメデイアで活躍、従来の「占い」のイメージを一新、圧倒的な支持を得る。
平安女学院大学、京都文教大学客員教授。
主な著訳書に『占星術の文化誌』(原書房)、『タロットの秘密』(講談社現代新書)
『ユングと占星術』(青土社)ほか多数。
公式サイト http://ryuji.tv/

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