幸せなドライブin UKを求めて その1/3 ーイギリスで運転すると幸せになれるんでしょ?ー | BRITISH MADE

Little Tales of British Life 幸せなドライブin UKを求めて その1/3 ーイギリスで運転すると幸せになれるんでしょ?ー

2019.04.02

日本の知人からよく受ける質問の中でも特に多いのが、イギリスでのレンタカー情報と自動車運転事情です。確かに、バーミンガム、ロンドン、エジンバラなどの大都市圏以外の名所旧跡は郊外に散らばっているので、機動性の高い自家用車利用は便利です。運行時刻が信用できないイギリスの公共運輸サービスの現状を思えば、ひとつ乗り換えがあるだけでも、接続のリスクと精神衛生への影響を考慮せざるを得ません。ただし、日本やスイス以外のどこの国に行っても、運輸業界は産業としてのステイタスが低く、組織内のつながりが不十分に感じられます。我々日本人が、外国の運輸サービスは前時代的で特に不便と感じられる主な理由は、われわれが日本というサービス過剰のガラパゴス状態に慣れてスポイルされてしまっているから、という気がしないでもありません。実際に海外に出て運輸サービスの実情を確かめてみると、どの国でも他の産業に比べて運輸業界の職員の意識の低さや、対応力の稚拙さに驚くことも少なくありません。一方で、特に日本の鉄道職員の皆様は何事にも完璧を目指す鉄道愛の強い方々や鉄道マニアが最高品質の労働力として職務に従事されているとお見受けしています。

例外中の例外かもしれませんが、意外な人物もいます。「究極のスローライフ」などとうそぶいて、あの不便さをわざわざ味わいに行くイギリスフリークな日本人の知人もいます。彼女は日英両国に不動産を持つ早期退職者なので、ゆったりする時間と長期的な生活を保障する財産を持った心身ともに余裕のある人です。列車がキャンセルになれば、次の列車を待つまでの時間は読書に当てるそうです。しかし、当方のような生活に時間を追われる身としては、節約を余儀なくされる大半の旅行者の皆様と同様に、利便性を高めるための提案させて頂きたいと思います。
駐車場からクリケットグランドを臨む長閑な光景。典型的なイギリスの景色の一部の中に自分自身が同化していることに心の充足感を覚えます。

最適な交通手段を考える

この記事を企画するに当たって、イギリスで何回レンタカーを利用しただろうかと思い返して数えてみると、この35年間で少なくとも43回。そのうち15年間はイギリス住まいでしたが、利用した理由は、イギリス国外勤務の間、イギリスに一時帰国するたびに列車の駅から離れた郊外に2,3週間ほど家を借りたこと。4人家族の生活だったこと。親類縁者がヨークシャー、ウェールズなどの地方に散らばっていること。子どもたちが地方の大学に進学するためにロンドンのパブリックスクールや拙宅から大学の寮まで荷物を運んだこと。スーツケースを持ち歩く労力を軽減したかったことなどが挙げられます。イギリス国内での家族持ちにとって、レンタカーは最善の移動手段です。

公共交通が複数発達している大都市圏を拠点とする場合、近場の移動では地下鉄、バス、タクシー、サイクル・ハイア(通称ボリス・バイクなどの貸自転車)という選択がありますし、ロンドン中心部に乗り入れた場合はコンジェスチョン・チャージ(渋滞税)の課金もありますから、むしろ大都市圏での自家用車利用は不適です。
ブラックキャブの運転士を目指して、スクーターやモーターバイクでロンドン中を走り廻る受験者です。赤字のLはLearnerで、まさに学習者を意味します。また、キャブ・ドライバーになるために受ける試験をthe Knowledge testと呼ぶことをご存知の方々も多いと思います。難関のtestに合格したキャブ・ドライバーは確かに知識が豊富ですが、知識がアップデートされていないことが稀にあります。

ところで、2003年にコンジェスチャージを導入すると、自家用車利用の乗り入れが減ったロンドン市内交通の平均時速は約15キロとガーディアン紙上で発表されました。すなわち、150年前に遡るヴィクトリア時代の交通事情、馬車のスピードまで改善したそうです。しかし、サスペンションの発達していない馬車の15キロってけっこうな速さに感じられると思いますけど、平均時速15キロで走るタクシーやバスには、その遅さに苛立ちを覚えそうです。ちなみに、transport for Londonの観測によると、この平均時速は12キロと発表されています。
QEII(エリザベス2世女王陛下)本人の誕生記念式典、trooping the colourで乗る予定の馬車。この数分後には、檀上にお出ましになった女王が乗り込まれました。興味のある方はこの御車がどれくらいのスピードで走行しているか、動画検索で確かめることが可能です。
Postilions(騎乗御者)、Footmen(馬丁)、そしてOutriders(騎馬従者、エスコート)などの制服姿。彼らの職業もLivery Company(リヴァリ・カンパニー)によって作法が決められ、特別な技術を持った熟練者です。フットマンのコートの中には拳銃が忍ばせてあるそうです。また、両脇の御者の右脚に当ててある具足は、右側に並走する馬に足を当てないための工夫です。

前世紀の話になりますが、経験上ロンドンで最も早く、且つ安価に済ませる乗り物はかつての飛び乗りバスか、自転車でした。航空旅行業の営業マンだった当方は、ウエストエンドなどシティより広めの営業先に向かう際、行先など確かめることなく、ヒップレスのバス(後ろ乗りのルートマスター)を利用していました。バスのルートナンバーを熟知していたので、頃合いを見計らってバスが減速するときに飛び降りと、飛び乗りを繰り返していたのです。また、日本から持って来た自転車を使って、シティ中心部の営業活動をしていました。ところで、今気づいたのですが、1996年にロンドンのその企業を去る際に、その自転車をHスクウェアにあった会社の地下駐車場に置き忘れてしまいました。1980年代の終わりに日本で購入して引っ越し荷物として海を渡った〇印良品の、あの自転車は今どこに…。いま流行りのコピーで言えば、もはや「極度中古」でしょうか。

ヨーロッパ大陸はとても近く、ブリテン島はとても狭い

家族と一緒のホリデーでのイギリス国内移動と言えば、列車よりも自家用車利用の旅の方が一般的です。財政的に余裕のある邦人駐在員の中にはロンドンからスコットランドまで走る列車(2005年に撤廃されたMotorailサービス)に自家用車を載せて地方の旅を楽しむ人もいましたが、7~8時間程度のドライブであれば、途中の目的地を設けるとか、車の機動性の方が便利で安価と考える人も多いと思います。また、ヨーロッパ全体の地図を眺めていると、イギリスとヨーロッパは目と鼻の先ほど近くに感じられます。
観光列車フライング・スコッツマンは19世紀の駅馬車の乗り継ぎを起源としています。民営化されて以来、列車でロンドン・キングスクロスからエジンバラの間を4時間半で結んでいます。エジンバラの駅や空港ではレンタカーを借りることも返却も可能。前シリーズのノーサンバランド紀行では、ニューカッスル空港から借りて、エジンバラ空港で返却しました。

レンタカーではありませんでしたが、当方にとって自家用車による最長の片道旅行はイギリスからスイスに赴任した時のことです。ティーンエイジャーの子どもたちはパブリックスクールのボーディングハウスに入寮していたので、妻と二人だけの赴任です。ロンドンの自宅からドーヴァー海峡トンネル経由でジュネーブまで運転しました。全長610マイル(約980キロ)のうち、トンネル内を列車移動する区間は35キロほど。当時は2007年、インターネットサイトのマップはまだあまり正確でもなく、おまけにネット環境が充分に整っていない時代でしたので、全ルートをプリントアウトして、細かな旅程を立てて約1,000キロのドライブに備えました。途中、道を間違えるだろうし、英仏海峡トンネルの列車に自家用車を乗り入れるには思いのほか時間を要するかもしれないと鑑みて、10時間以上の旅程を想定し、フランスのとある田舎町(地名は忘却の彼方)で一泊することにしました。ロンドンからジュネーブに陸路で行くにはフランスを北西から南東に縦横断する感じです。

ちなみに、カーフェリーという選択肢もありますが、海上路ですと天候によって欠航や遅れが生じることもあるので、数手先まで段取りの決まった転勤スケジュールを遂行するうえで、天候に左右されないトンネル列車の選択は最適であったと思います。
英仏海峡トンネルの列車に乗り込むときの順番待ちの様子。列車がトンネル内を通過している間の約30分間、自分の車の中で過ごさねばなりません。乗り込んだ際に高ぶった気持ちは、列車で運ばれている間に醒めてきます。そして、フランスに着くなり自動車の右側通行という現実に緊張感を覚えます。

また、当時はシェンゲン協定が結ばれる以前で、しかもスイスはEUの非加盟国です。途中、スイス国境を越えるので、助手席に座る妻はパスポートと外交官信任状を握りしめていましたが、国境には警備員の姿もなく、普通にドライブしてフランス-スイス国境を通過するだけのあっけない転勤の旅となりました。結果、この旅程は正解でした。ロンドンから空路でジュネーブに向かうのであれば、荷物の厳密な重量制限もあるし、空港での外交入国手続きも長時間掛かるし、フライト以外の足をアレンジする必要もあるし、時間的にも丸半日以上掛かるわけです。車さえあれば、ドアツードアも可能なわけで、これ以上に便利なアクセス方法は無いわけです。陸路(海底トンネル路を含む経路)で10時間の強行突破も理論的には可能でしたが、余裕を持った計画を立てて2日間の旅に仕立てたことで、外交生活上もっとも快適な転勤になりました。この経験の結果、ヨーロッパはおろか、イギリス国内はどこでも車で行けるほど近いことを再認識したわけです。
ジュネーブに着く直前、フランスでフェルネ・ヴォルテールという可愛らしい街を通り過ぎました。イギリスとはまったく異なる光景に、その後の新生活のイメージを重ねていたことを思い出します。

レンタカーでイギリスのドライブ

ヨーロッパ全体の移動を考えると、空路を含めて他のどの乗り物と比較しても自家用車の利便性は高いと思います。おまけに、好きな景色を好きなだけ堪能できるし、今どきのナビゲーションを利用すれば、道を間違ってもリカバリー(リベンジは誤用です)は簡単です。当方が各誌で再三述べて来た「イギリスの幸せなドライブ」が、イギリス旅行をする邦人の皆様にレンタカー利用を駆り立てることになったのでしょうか? 「イギリスのドライブは幸せなんでしょ。私もその幸せを味わってみたい」 とおっしゃる方が増えているのです。ともあれ、イギリスでレンタカーを借りる際に、当方が気を付けてきたことなどを述べて行きたいと思います。
「君たちは早く行けるけれど、僕らはどこにでも行ける」ランドローバーのユーザーによる名言を説明するに足る光景です。画像のような芸当をスポーツ車に要求するのは無理ですが、ローバーに乗れば、どんな山道も越えられそうな気持ちになります。ちなみに、東日本大震災の時、在日イギリス大使が被災地に駆けつける際に働いた車がローバーでした。瓦礫の山や地割れした路面を経てイギリス大使館に戻ってきたローバーのタイヤは傷だらけでした。被災地まで向かった職員たちは、その勇気と行動力ゆえに大英帝国勲章を授与されています。

レンタカーの借り方、自動車保険、日英の運転の違い、そして皆さまの参考になりそうな当方の経験談を述べると、格段に長い記事になってしまいますので、「しあわせなドライブin UKを求めて」シリーズとして記事を3回に分けることにします。次回はレンタカーの受け渡しと返却の注意点について、特に自動車保険について述べる予定です。

Text&Photo by M.Kinoshita


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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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