次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ウェストンバート樹木園 | ブリティッシュメイド

English Garden Diary 次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ウェストンバート樹木園

2025.12.01

「ここの紅葉は絶対に美しいはずだから、季節になったら必ずまた来よう」

今年の5月、コッツウォルズ地方にあるウェストンバート樹木園を夫と訪れたとき、そう約束したのは、この広大な場所にあるそれぞれの木々の織りなす多彩な緑の美しさに圧倒されたからでした。

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樹木園の途中にはカエデ(Acer)が植えられているエリアがあり、5月の段階ではまだ新緑のものがほとんどだったものの、園内の看板には真っ赤に燃えるようなカエデの写真とともに、「イングランドでも有数の紅葉の美しい場所がここです」と明記されていたのですから、再訪しない手はありません。ということで、10月の後半に紅葉を求めてウェストンバート樹木園を再訪しました。

マクギネス真美 バース ジェーンオースティン イギリス旅行 英国旅行期待がたかまる紅葉エリアへの入り口。
ところでこの場所が「植物園」ではなく「樹木園」と呼ばれるのは、その名の通り樹木を楽しむための場所だからです。およそ約240ヘクタールの敷地に、世界各地から集められた約1万5000本の木々が植えられ、樹木の種類でいえば2500種以上があるといいます。素晴らしいコレクションだというのは一歩足を踏み入れればわかりますが、とにかく広大で全部を見て回るには一日では到底無理というほどの規模です。また、ほとんどの木には学名や原産地が記載されていますが、それを見るだけではひとつひとつの木にまつわる物語を詳しく知ることはできません。なので私たちはまずボランティアの方たちによって開催されている園内ガイドツアーに参加して、この場所の歴史や、主だった木にまつわるエピソードを聞きながら園内に植えられている木々と触れ合っていきました。

マクギネス真美 バース ジェーンオースティン イギリス旅行 英国旅行園内ツアーガイドの方々はみなボランティア。どんな質問にも答えてくれる。

ヴィクトリア時代の「樹木のオタク」が生み出した木の王国

ウェストンバート樹木園が誕生したのは、ヴィクトリア時代の「プラントハンティング」が盛んだった19世紀です。この土地の所有者だった実業家 ロバート・ステイナー・ホルフォードが1829年頃から世界中の珍しい木々を集めたことが始まりでした。ホルフォード家は代々、ビジネスでの成功をはじめ、所有している土地を拡大したりして莫大な富を築いていきました。そして、芸術と自然の両方に情熱をもつロバートがウェストンバート・エステートを相続した時には、このウェストンバート樹木園を実現できるほどの広大な土地と資産が備わっていたのです。

当時はプラントハンターとして、イギリスから冒険家たちが世界各地へと新種や珍しい植物を探し出して持ち帰るために派遣されていました。彼らは数か月、ときには数年にもわたって世界を旅して、現地の地形や気候、植物について詳しい人たちの力を借りながら、イングランドでは見たことのない、新しい植物を見つけ、持ち帰ってきました。

ホルフォードは特に北米での植物採集遠征に資金提供していたといい、彼のもとには、プラントハンターたちが持ち帰った珍しい植物が集まってきました。それらをこのウェストンバートの土地に植えていったのです。

その後、ロバートの息子ジョージの代になって、彼がそのコレクションをさらに発展させたと言われています。なかでもこの植樹園の樹木の植え方、配置にはその影響が大きいのだとか。というのも、多くの樹木園では地域ごと、あるいは学術的な分類に基づいて植物を配置することが多いなか、ここウェストンバート樹木園では、景色、景観を優先して樹木が植えられているというのです。ガイドのグレッグさんによれば、たとえば、一つのエリアに足を踏み入れたとき、手前に背の低い木を植え、遠くにいくほど高い木が植えてあり、見通しが良くなっているデザインになっていること。また、それぞれの植物の幹の形、葉の色、形、全体の樹形のコントラストや、季節ごとの景観の変化。そうした「美しさ」を優先させたデザインがなされているのです。

マクギネス真美 バース ジェーンオースティン イギリス旅行 英国旅行色、形、高さといったデザインが計算された園内。

9000キロ離れた国で日本の秋を思う

ウェストンバートに最も人出が多くなるのはやはり何といっても秋です。紅葉のピークの時期になると入場規制も行われるため、私たちも1ヶ月以上前にチケットを予約しておきました。日本では紅葉は11月がピークですが、イギリスでは少し早く10月の後半には街路樹も黄色やオレンジ、赤く葉の色を変えていきます。ウェストンバート植物園でも10月半ばからが紅葉のシーズンとなります。

当然、ここでも紅葉の主役といえば、日本の紅葉やカエデです。”Japanese Maple”のエリアではプロの写真家と思われる人から携帯のカメラで家族の写真を撮る人まで、たくさんのカメラマンが艶やかな紅葉をカメラに収めていました。

イングランドでは1、2を争うというウェストンバートの紅葉。広大な敷地内で、たくさんの大木に囲まれて赤く染まったモミジやカエデを見るのはとてもわくわくしましたが、日本での紅葉狩りを体験している私には、むしろ日本の紅葉が恋しくなる気もしました。また、日本の懐かしい植物を遠く離れたこのイングランドの地で見せてくれてありがとう、という気持ちにもなりました。

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紅葉の広がるエリアはこの時期のウェストンバートにおけるクライマックスとはいえ、とにかく広いこの樹木園には、それ以外にもたくさんの樹木があるので、ゆっくり一日かけて滞在するのがおすすめです。特にぜひ体験してほしいのは「ツリー・トップ・ウォークウェイ」という橋のような歩道。木々の梢と同じくらいの高さ、あるいは他の木々を見下ろすこともできるまで連れていってくれる、いわば「空中散歩コース」です。

地上から高木を見上げるときは幹や枝ぶり、葉っぱを楽しむ感じですが、その高い木々を見下ろすように眺めると、緑のグラデーションの絨毯を見ているような気持ちになります。思わずそこに向けてジャンプしたくなるような衝動に駆られたりもしました(実際にジャンプするのはおすすめしませんが!)。

マクギネス真美 バース ジェーンオースティン イギリス旅行 英国旅行見晴らしは最高ですが、高所恐怖症の方は気をつけて。

樹木園の役割

さて、ウェストンバート樹木園は、単に美しい植物を鑑賞するための場所ではありません。実は、地球規模での樹木保護において、とても重要な役割を担っているのです。というのも、現在、世界の樹木種の3分の1が絶滅の危機に瀕していると言われています。そんななか、ウェストンバートには、そうした絶滅種の植物が存在していたりします。そして、そうした貴重なコレクションをさらに増やし、絶滅から救うという役割もになっています。こうした活動の重要性について、ウェストンバートのキュレーター、ダン・クロウリーさんは、樹木園で植物を育てること、繁殖させることは、未来への「保険」だと表現しています。

ところで、大英博物館にイギリスが世界から持ってきた歴史的彫刻や重要文化財があることへの批判が高まり、議論の対象になっていることはよく知られています。それを考えると、ウェストンバート樹木園にプラントハンターたちが世界から植物を持ち帰ってきたことも、見方を変えれば批判の対象になる行為だった部分もあるかもしれません。ただ、現在原産地では絶滅してしまったり、絶滅の危機に瀕しているものが、ウェストンバートで育っている場合には、それらをまた原産地にも植樹したり、生育させることができるサポートができるという意味では、この地に世界中からの植物が集められたことは、幸運だったという見方もできなくはありません。

ダンさんはそれについて「ウェストンバートのようなコレクションで絶滅危惧種を育てることは、これらの樹木にとって不可欠な『保険』です。樹木園のコレクションで絶滅の危機に瀕した樹木を世話することで、私たちはそれらについてより多くを学び、研究用の素材を提供したり、場合によっては再導入に役立てたりすることができます。」と言っていますが、このウェストンバートは、単に美しい樹木を見ることができる観賞用の場所というだけでなく、地球上の種の存続をかけた最前線と言えるのかもしれません。

寒くて暗いイギリスの冬のお楽しみ

さて、この季節のウェストンバートでは、紅葉のほかにも楽しみがあります。それは冬の定番イベント「Christmas at Westonbirt」。これは暗くなってから樹木園に各所がライトアップされ、森の中を巡るイルミネーション・トレイルです。

知人はお子さんが小さい頃には毎年出かけていたと言っていましたが、たしかに、子どもたちにとってはまるで妖精のいる森を冒険しているような気分になれる時間です(もちろん、大人にとっても!)。

この時期のイギリスは、午後4時頃には日が沈み、午後5時には真っ暗。だからこそ、こうしたイルミネーションがあると、人々の心に明かりを灯してくれるのです。

マクギネス真美 バース ジェーンオースティン イギリス旅行 英国旅行ベンチに座ってゆっくり時間を過ごすのにも最適な場所。
一年中、どんな時でも美しい木々のさまざまな表情に出会えるイングランド随一の樹木園、次のイギリス旅行の行程にぜひ加えてみてください。

*ウェストンバート国立樹木園(Westonbirt Arboretum)
住所:Westonbirt, The National Arboretum, Tetbury
ウェブサイト:forestryengland.uk/westonbirt/
開園時間、入場料は季節によって異なる場合がありますので訪問前にウェブサイトにて確認ください。

Photo&Text by Mami McGuinness


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マクギネス真美

英国在住22年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物、人物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。ポッドキャスト"The Real You with Mamita"および音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』ではコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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