18世紀から19世紀にかけて活躍した、イギリスを代表する女流作家ジェーン・オースティン。彼女は『高慢と偏見』、『分別と多感』、『エマ』など、小説はもちろん映画でも世界中から圧倒的な人気を誇る6編の名作を生み出しました。現在の10ポンド貨幣にその肖像が印刷されているというところからも、彼女がイギリスの歴史において、どれほど偉大な存在かがわかります。
今年はジェーンの生誕250年に当たるため、彼女にゆかりのあるイギリス各地でイベントが予定されています。
そんな中、ジェーン・オースティンファンであれば必ず訪れたいのが、彼女の人生そして作品に息吹を与えた、イングランド南西部に位置する世界遺産の街バースです。
かつては富裕層の保養地として栄えたバース。現在は世界中から観光客が集まるイングランドの名所。 そして、そのバースの中心にあるのがジェーン・オースティン・センター(The Jane Austen Centre)。ここは彼女のファンにとっては聖地とも言える場所。今回は、世界中から年間20万人が訪れるというこのセンターについてご案内します。
観光名所の多いバース内でも、最も人気の高い場所のひとつがジェーン・オースティン・センター。
センターの入口では、当時の衣装を身にまとったガイドのマーティンさんがにこやかな笑顔で迎えてくれます。優しい紳士のお出迎えに、まるで『高慢と偏見』の舞踏会に参加するような気分になるファンもいるのでは、と思わせます。
イングランドで最もたくさん写真を撮影された人物とされるガイドのマーティンさん。 センター内に入ると、見学の前に、ジェーンの生い立ちから作家としてのキャリア、そしてバースでの暮らしがどのように彼女の創作に影響を与えたかをガイドの方が楽しく丁寧に解説してくれます。
女の子は姉のカサンドラとジェーンの2人であとは男性5人という7人兄弟の間に育ち、幼い頃から読書や執筆をしていたというジェーン。父親のジョージ・オースティンはジェーンの才能を早くから認め、彼女が小説を書くことや出版を応援してくれていたのだそうです。
ジェーンの生い立ちを聞きながら、世界でも最も有名な作家の人生を思う。 また彼女が残した小説のうちふたつ、『ノーサンガー・アビー』と『説得』はバースを舞台としており、ジェーン・オースティンがバースで過ごした時間は、彼女の執筆活動に大きな影響を与えたことはセンターに展示された彼女の足取り、歴史を見るとよくわります。
さて、センター内を進んでいくと、ジェーンが生きたリージェンシー時代のドレスやシューズ、扇子などが展示されています。贅沢な素材を使った華やかなコスチュームや日用品から、この時代を生きた社交界の雰囲気が伝わってきます。
女性が履いたシルクのシューズの小ささに驚く。また当時のシューズには左右の区別はなかった。 繊細なアクセサリー類に見入っていると、にぎやかな笑い声が奥から聞こえてきました。というのも、この先には実際にリージェンシー時代の衣装を纏うことのできるコーナーがあるのです。
こうした「コスプレ」ができる場所はイギリス国内の博物館などでは珍しくありませんが、ジェーン・オースティン・センターには『高慢と偏見』に登場する、世界中の誰もが知っているミスター・ダーシーと一緒に記念撮影ができる、という特典つきです。
パートナーと一緒にコスチュームに身をつつんで記念撮影を終えた男性に「どんな気持ち?」と尋ねると
「まるでイギリス紳士になった気分だよ」
満面の笑顔で答えてくれました。
私はスタッフがすすめてくれた、当時流行していたエンパイアスタイルと呼ばれる、胸下で切り替えられてストレートに流れるような長いスカートが特徴の青いドレスとボンネットと呼ばれる帽子(これも青色で揃えました)を着用しました。もちろん、ミスター・ダーシーの横に並んで記念撮影をしてもらいましたよ。
エレガントな印象のリージェンシー時代の衣装。 ほんのひとときとはいえ、映画の主人公になったような気分になること間違いなしですから、センターを訪れたときには、あなたもぜひ恥ずかしがらずにコスチュームに身を包んでみるのをおすすめします。
アメリカから観光でやってきたご夫婦もミスター・ダーシーと記念撮影。 さて、ジェーンは姉カサンドラ宛のものをはじめ、たくさんの手紙を書いたことで知られています。次の小部屋にはジェーンが手紙を書いている、あるいは小説を執筆している様子を彷彿とさせるような展示となっています。
ジェーン・オースティンの息づかいが聞こえそうな小部屋。 この部屋の隅には小さな机と羽ペンとインクが置かれ、訪問者もジェーンになりきって文字をしたためることができます。鉛筆やボールペンですら文字を書く機会が極端に減っている現代だからこそ、羽ペンを使って文字を書くのは、特別な感じがします。私も、誰かに手紙を書きたくなりました。
当時の手紙は差出人ではなく、受取人が郵便代を支払ったそう。 最後の部屋にあるこのセンターのハイライトとも言える展示といえば、ジェーン・オースティンの蝋人形です。
快活でユーモアにあふれ、子どものように生き生きとしていたというジェーン。 3年もの制作期間を経て2014年にセンター内にお目見えした蝋人形は、当時BBCニュースでも取り上げられたほど話題になったもの。
というのも、ジェーンの肖像画は姉のカサンドラがスケッチしたといわれるものが残っているくらいで、彼女の本当の姿というのは謎に満ちているからです。
とはいえ、ジェーンの甥や姪、家族ぐるみの友人たちがジェーンの容姿について記述したものを元に、FBIの訓練を受けた法医学アーティスト(!)の協力によって作られたこの蝋人形は、現代において、ジェーンの姿を知る唯一の手がかりともいえる作品です。
ほかにもジェーンの小説を原作にした映画撮影の際の貴重な写真の展示は、映画ファンにとって一枚一枚が懐かしい気分にさせられ、もう一度映画を見直したくなること間違いなし。
映画『高慢と偏見』で主演したエマ・トンプソンから特別に寄贈された写真と、彼女の直筆の手紙も特別展示されている。 ジェーン・オースティン・センターは小さな規模とはいえ、気づいたら2時間半以上がすぎていたというほど、見ごたえのある博物館でした。
ここでしか買えないオリジナルグッズをを買うことのできる売店や、リージェンシー時代を彷彿とさせるインテリアの中でアフタヌーンティーを楽しむことのできるティールームもあり、ジェーン・オースティンファンにとって、ここがメッカとも言われるのにも納得です。
装丁の美しい本やノートなど、ファンならどれもがほしくなりそうなグッズはオンラインでも購入可能。日本への配送もあり。
ティールームは人気なので、事前予約を忘れずに。 photo:©The Jane Austen Centre どっぷりとジェーン・オースティンの世界にひたってからこの場所を後にしたとき、ジェーン・オースティン・センターのアンバサダーでもあるガイドのマーティンさんが話してくれたことが思い出されました。
「ジェーンの作品はとても穏やかで、ロマンチック。今のような不確かな時代において、彼女の紡ぎ出す物語は人々に安心感を与えてくれるのだと思います。彼女の小説はすべてがハッピーエンド。だからこそ読者は彼女の優しい物語の世界に入り込むことで、幸せな気持ちになれるのです。また、小説の中ではさまざまな人間の個性的な特性が細やかに描写されていて、彼女が創り出した多くのキャラクターたちは今でも私たちの中に生きているんだと思います。今の世の中には暗い小説や物語がたくさんあるけれど、ジェーンの作品にはいつも『陽の光』があるんです。19世紀初頭のイギリス、まぶしい日が差す芝生の上で人々がくつろぎ、人生がもっとシンプルだった頃。ここを訪ねる人々は、そういう穏やかさや優雅さ、そしてミスター・ダーシーとのロマンスを求めているんだと思います」
私がここを訪ねたのも、ちょうど新緑が美しい季節。ジェーンが生きた時代にも、きっと同じようにこの時期のバースでは藤やライラックの花が咲き誇り、芝生の緑がきらきら輝いていたことでしょう。
イギリスの美しい初夏にはジェーンも青空の下でピクニックをしていたに違いない。 さて、最後にお知らせをひとつ。毎年9月にはこの地でジェーン・オースティン・フェスティバルが開催されています。今年は生誕250年を記念して、いつも以上にたくさんのイベントが準備されているとのことですので、記念すべき2025年、あなたもぜひ一度バースを訪れて、ジェーン・オースティンの世界に浸ってみてはいかがでしょう。
今年はジェーンの生誕250年に当たるため、彼女にゆかりのあるイギリス各地でイベントが予定されています。
そんな中、ジェーン・オースティンファンであれば必ず訪れたいのが、彼女の人生そして作品に息吹を与えた、イングランド南西部に位置する世界遺産の街バースです。


小説の世界に入り込んだよう
ジェーン・オースティン・センターは、バース市内のゲイ・ストリート40番地(No. 40 Gay Street)に位置しています。この建物は、18世紀中頃に建築家ジョン・ウッド親子によって設計された、典型的なジョージアン様式のタウンハウスです。実際にオースティン一家が住んでいたのは、センターからもう少し坂をあがった25番地ですが(ここは現在歯医者さんになっています)、建物自体はどちらも似た構造を持っているので、ジェーン・オースティン・センターを見るだけでも、ジェーンが暮らした家を想像することができます。センターの入口では、当時の衣装を身にまとったガイドのマーティンさんがにこやかな笑顔で迎えてくれます。優しい紳士のお出迎えに、まるで『高慢と偏見』の舞踏会に参加するような気分になるファンもいるのでは、と思わせます。

女の子は姉のカサンドラとジェーンの2人であとは男性5人という7人兄弟の間に育ち、幼い頃から読書や執筆をしていたというジェーン。父親のジョージ・オースティンはジェーンの才能を早くから認め、彼女が小説を書くことや出版を応援してくれていたのだそうです。

さて、センター内を進んでいくと、ジェーンが生きたリージェンシー時代のドレスやシューズ、扇子などが展示されています。贅沢な素材を使った華やかなコスチュームや日用品から、この時代を生きた社交界の雰囲気が伝わってきます。

こうした「コスプレ」ができる場所はイギリス国内の博物館などでは珍しくありませんが、ジェーン・オースティン・センターには『高慢と偏見』に登場する、世界中の誰もが知っているミスター・ダーシーと一緒に記念撮影ができる、という特典つきです。
パートナーと一緒にコスチュームに身をつつんで記念撮影を終えた男性に「どんな気持ち?」と尋ねると
「まるでイギリス紳士になった気分だよ」
満面の笑顔で答えてくれました。
私はスタッフがすすめてくれた、当時流行していたエンパイアスタイルと呼ばれる、胸下で切り替えられてストレートに流れるような長いスカートが特徴の青いドレスとボンネットと呼ばれる帽子(これも青色で揃えました)を着用しました。もちろん、ミスター・ダーシーの横に並んで記念撮影をしてもらいましたよ。





というのも、ジェーンの肖像画は姉のカサンドラがスケッチしたといわれるものが残っているくらいで、彼女の本当の姿というのは謎に満ちているからです。
とはいえ、ジェーンの甥や姪、家族ぐるみの友人たちがジェーンの容姿について記述したものを元に、FBIの訓練を受けた法医学アーティスト(!)の協力によって作られたこの蝋人形は、現代において、ジェーンの姿を知る唯一の手がかりともいえる作品です。
ほかにもジェーンの小説を原作にした映画撮影の際の貴重な写真の展示は、映画ファンにとって一枚一枚が懐かしい気分にさせられ、もう一度映画を見直したくなること間違いなし。

ここでしか買えないオリジナルグッズをを買うことのできる売店や、リージェンシー時代を彷彿とさせるインテリアの中でアフタヌーンティーを楽しむことのできるティールームもあり、ジェーン・オースティンファンにとって、ここがメッカとも言われるのにも納得です。


「ジェーンの作品はとても穏やかで、ロマンチック。今のような不確かな時代において、彼女の紡ぎ出す物語は人々に安心感を与えてくれるのだと思います。彼女の小説はすべてがハッピーエンド。だからこそ読者は彼女の優しい物語の世界に入り込むことで、幸せな気持ちになれるのです。また、小説の中ではさまざまな人間の個性的な特性が細やかに描写されていて、彼女が創り出した多くのキャラクターたちは今でも私たちの中に生きているんだと思います。今の世の中には暗い小説や物語がたくさんあるけれど、ジェーンの作品にはいつも『陽の光』があるんです。19世紀初頭のイギリス、まぶしい日が差す芝生の上で人々がくつろぎ、人生がもっとシンプルだった頃。ここを訪ねる人々は、そういう穏やかさや優雅さ、そしてミスター・ダーシーとのロマンスを求めているんだと思います」
私がここを訪ねたのも、ちょうど新緑が美しい季節。ジェーンが生きた時代にも、きっと同じようにこの時期のバースでは藤やライラックの花が咲き誇り、芝生の緑がきらきら輝いていたことでしょう。

*ジェーン・オースティン・センター
住所:40 Gay street, Bath, BA1 2NT
ウェブサイト:janeausten.co.uk
入場料:大人(オンライン購入):17ポンド、学生または60歳以上:15.50ポンド、子ども:9.50ポンド
開館時間:季節によって異なるため、訪問前にウェブサイトにて確認を
*ジェーン・オースティン・フェスティバル
開催期間:2025年9月12日〜21日
開催場所:バース市内各地
ウェブサイト:janeausten.co.uk/pages/festival-2025-250th-anniversary-year
Photo&Text by Mami McGuinness
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マクギネス真美
英国在住22年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物、人物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。ポッドキャスト"The Real You with Mamita"および音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』ではコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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