イギリス産ナチュラル・ワインの作り方 ーLimeburn Hill Vineyard | BRITISH MADE

English Garden Diary イギリス産ナチュラル・ワインの作り方 ーLimeburn Hill Vineyard

2019.11.21

8月に入ると、イギリスの空気には秋の匂いが漂いはじめます。夏の間の突き刺すようにまぶしかった太陽の光は身を潜め、かわりにひんやりとした風が季節の変化を告げるのです。

そして10月には、木々の葉は黄色やオレンジ、赤へとその色を変え、秋はどんどん深まります。朝から夕方まで空がダークグレイに覆われ、雨の降る回数が増えるのもいつものこと。そんななか、以前、取材させていただいた、サマセット地方でナチュラルワインを作っているライムバーン・ヒル・ヴィンヤードのオーナー、ロビンさんから、ぶどう収穫の連絡をいただきました。
「前回取材に来てくれた時、収穫を手伝いたいと言っていたから、もし興味があったら、ハーベストに参加しませんか。ジョージーナがベジタリアン・ランチを用意しますよ。」
ランチにつられたのもありますが、イギリス国内でも珍しい、バイオダイナミック農法によるブドウ作りの現場を見てみたくて、でかけてきました。
Limeburn Hill Vineyard ヴィンヤードで収穫されるのを待つブドウ。
10月後半のイギリスは、すでに厚手のコートが必要です。特に、収穫の日は雨こそ降っていなかったものの、チャコールグレイの雲が立ち込め、気温は10度前後。風通しのよいブドウ畑での作業ということで、フリースに厚手のレインコート、足元は長靴という装備ででかけました。
Limeburn Hill Vineyard イギリスらしい(?)グレイな空の下で。
Limeburn Hill Vineyard 腰をかがめずにブドウを収穫できるのは、腰への負担がなく、作業しやすい。
収穫するブドウは、オリオン(orion)とセイヴァル・ブラン(Seyval blanc)という品種です。これらから天然微発泡性の白ワインが生まれるのです。

収穫に集まったのは、16名ほど。誰もがみな、ロビンさんとジョージーナさんの作るバイオダイナミック自然ワインに興味がある、というのが共通点です。

よく切れるハサミを使って、一房ずつ、丁寧にブドウを茎から切り取ります。秋になって雨が続いたせいもあり、傷んでしまった実も混じっているので、それらを丁寧に取り除いてひとつずつバケツに入れていきます。
皆、おしゃべりをしながら、普段の生活ではあまり体験することのないブドウの収穫を楽しんでいました。
Limeburn Hill Vineyard 収穫したブドウがバケツいっぱいになると無性にうれしい。ガーデニングなどと同様、こうした作業は人間に充実感や満足感をもたらせてくれるものだと気付かされる。
3時間ほどして一区切りつけると、ジョージーナさんが準備してくれた、ナスとレンズ豆のシチューと人参とフェンネルのサラダでランチです。ライムバーン・ヒル・ヴィンヤードで作られた微発泡性の赤ワインもふるまっていただきましたが、私は午後の作業に備えて、ほんの一口だけにしておきました。メレンゲにリンゴのシチューとクリームがたっぷり挟まれたイギリスらしいデザートをいただいた後は、もうひと作業。セイヴァル・ブランの収穫です。午前中に収穫したオリオンに比べると果実の傷みが少ないため、傷んだ実を取り除く作業が少なくてすんだ分、スムーズに作業が進みました。
ランチ ジョージーナさん特製のベジタリアン・ランチ。
この日、予定していた収穫がすべて終わったのは、午後3時ごろ。このあと、車で20分ほどのところにあるワイナリーに移動して、ワインを仕込みます。
Limeburn Hill Vineyard 収穫されたブドウは、全部で500kgほど。収穫後すぐ、車に乗せてワイナリーへと運ぶ。
収穫したブドウは全部で約500kg。それを、除梗破砕機と呼ばれる機械にかけて、茎を取り除き、ブドウを破砕します。1年間のロビンさんとジョージーナさんの労働の結晶ともいえる緑のブドウは、一粒一粒が真珠のように大切なものに思えます。作業を手伝っていた人の一人が
「二人の一年間のすべてがここにあると思うと、少しもこぼすまいと、緊張するね。」と言っていましたが、まさにその通り。こんなにも、一粒一粒を大切に、ワインを作るという現場に立ち会えたことに、大げさでなく、誇りと喜びを感じました。
Limeburn Hill Vineyard 収穫に満足げなロビンさん。
ロビンさんが糖度計を使ってブドウの糖度がワイン作りに適しているかを確認します。今年の秋、雨が多かったせいか、ブドウの糖度が低いとのこと。高いアルコール度数のワインにはならないけれど、それでもワインを作るのには十分な糖度があることが確認できました。
Limeburn Hill Vineyard 茎を取り除き、ブドウ果実を粉砕するのには除梗破砕機を使用する。
破砕されたブドウにピエ・ド・キューブ(pied-de-cuve)と呼ばれる、ブドウからできた天然酵母を加えて混ぜたら、空気が触れないように密閉して、あとは発酵を待つのみ。この日の作業はここまででした。
Limeburn Hill Vineyard この日収穫したのと同じオリオンとセイヴァル・ブランから作られたピエ・ド・キューブ。
まさに全てがワイン畑で採れた自然なものだけを使い、人工的なものを一切加えないワイン作り。ロビンさんは
「出来上がったワインは、その年のストーリーを物語るもので、主役はワインメーカーではないのです。」
といいます。つまり、ブドウの出来具合やさまざまな条件によって、毎年まったく違う味のワインができることこそが素晴らしいのだというのが、ロビンさんとジョージーナさんのワイン作りへの基本姿勢なのです。
あとは発酵を待つのみの状態。
発酵中の赤ワイン ワイナリーのタンク内では、赤ワインの発酵が行われていた。
収穫から10日ほどして、あの日から発酵を開始したワインを瓶詰めにしたと、ロビンさんから連絡がありました。

「はっきりしたことはディスゴージング(沈殿物を取り除くこと)してからでないとわかりませんが、今年のワインは、赤が180本、ローズが300本、白が280本くらいになると思います。」

今年は受粉時期の5~6月に2日間で30度から14度まで下がるという極端な気温の変化があったため、去年とはかなり違ったワイン作りとなったといいます。ひとつのブドウの房に、未熟のもの、ちょうどよく熟したもの、熟しすぎた実が同時に存在し、収穫のタイミングを見計らうのが、とても難しかったのだそうです。
また、ローズ・ワイン用のブドウを収穫した日は、風速40マイルという強風と豪雨の中で4時間収穫したものの、あまりの悪天候にその日は作業を断念。翌日、さらにその翌日と収穫しなければならなくなりました。これも、昨年の収穫状況とはずいぶんと違っていました。
そんな苦労があっても、毎年、その年ごとに違った個性、味のワインを作ることが、何よりの喜びだとロビンさんは言います。

「毎年、収穫には、家族や友人、それから、私たちのワインを仕入れてくれるレストランや、ワインを売買してくれる人々を招いて、一緒に作業をしたいのです。それがコミュニティとなり、ワイン作りに参加するそのコミュニティの人々の熱意や個性が、私たちのワインの特徴に加わると信じているのです。そして、私たちの物語が水面の波紋のように広がり、人々をインスパイアできたら素晴らしいと思うのです。」

これから先の計画については、来年、さらに400本の苗を植え付けるとのこと。それを加えると、ライムバーン・ヒル・ヴィンヤードのブドウは合計3000本になります。

来年には約1500本、そして再来年には2000本のワインを作りたいと考えているとロビンさん。6年後には5~6種類のワインを4000本くらい作れるのではないか、というのが現在の予定。そして、ヴィンヤードのある農場に住むことが夢だそうです。

ライムバーン・ヒル・ヴィンヤードの物語は、ワイン作りに関わった人々を通じて、たくさんの人に語り継がれていくようになるのでしょう。もしかしたら、ロビンさんとジョージーナさんが目指すのは、自然とともに人々がつながるコミュニティ作りで、ワインはその媒介としての存在なのかもしれないと思いました。春にまた、収穫作業を共にした人々と再会し、できあがったワインを飲むのが楽しみです。
コンポスト・トイレ ヴィンヤードの片隅に前回の取材時には制作途中だった、ロビンさん手作りのTreebog(コンポスト・トイレ)が完成していた。
ライムバーン・ヒル・ヴィンヤード(Limeburn Hill Vineyard)
住所:Westfield Farm, Limeburn Hill, Chew Magna, Bristol, BS40 8QW
ウェブサイト:limeburnhillvineyard.co.uk
*今年のワインは来年の5月に販売開始予定です。購入を希望される方は、ライムバーン・ヒル・ヴィンヤードまで直接連絡してください。
Photo&Text by Mami McGuinness


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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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