2018.09.27

ブリティッシュ“ライク” 灯火親しむべし

イギリスの風景
酷暑、猛暑などと呼ばれた夏が過ぎ、ようやく秋がやってきた。スポーツ界では、読売ジャイアンツの杉内俊哉投手が引退を発表。一時代を築き上げたいわゆる“松坂世代”の筆頭として活躍したサウスポーで、僕の最も好きな投手だった。キレのあるストレート、スライダー、チェンジアップのコンビネーションが持ち味で、稀代の強打者や巧打者が、まったく球が見えていないかのような姿で三振に切って取られるのがとくに印象的だった。この三振こそ彼の代名詞で、プロ野球史上最速で2,000奪三振を達成。さらに、歴代最高奪三振率のトップもこの杉内である。プロ野球選手としては、決して恵まれた身体つきではないにも関わらず、おそらく血の滲むような努力で頂点に上り詰めた、平成の大投手であることは疑う余地もない。ジャイアンツの18番のユニフォームを脱ぐことは誠に名残惜しいが、違った形で再びグラウンドに戻ってくる彼の姿が今から待ち遠しい。

さて、大好物の野球の話題を経たので遅れたが、本題の読書である。一冊の名著が長年の時を経て和訳された。タイトルは「紳士靴のすべて」。オリジナルは、「Handmade shoes for men」という靴に関する書籍の金字塔と言っても過言でない代物である。それゆえセレクトショップ、テーラー、靴工房などを訪れれば、必ずどこかにレイアウトされている。事細かく、突っ込んだ内容の専門書になるため、必然的にページの量も膨大だ。正直、原文のままでは、完全に理解するのは少々荷が重かったが、逐語的に訳された本書では、みるみる頭に入っていく。靴の歴史から始まり、構、素材、ケア、アクセサリーといった基本的なことを学び直すにはお誂え向きだ。さらに、ページをめくる度が遅くなったのは、なめし、ブローキング、ピンキングについての箇所である。例えば、なめしに関して触れるならば、準備、実際のなめし、そして、仕上げからクリッキングについて、写真を交えながら、かなりの文字数が割かれている。知れば知るほど奥が深く面白い。なぜならば、靴に関連する職種や業者でなければ、これらの工程をすべて目の当たりにすることは難しい。知ってしまった以上は、その様子を実際に見てみたいと願うのが自身の欲深いところである。そんな欲望を抑えながら、一人ほくそ笑み、ページをめくるのである。
紳士靴のすべて
打って変わって次に紹介するのは、「英国怪談珠玉集」である。タイトル通り、英国に関連する怪談を集めた作品であることは言うまでもない。以前紹介した映画「ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談」に続き、またもやこのようなタイトルを選ぶのには何かの縁があるのだろうか。しかしながら、本書は、幽霊の登場に金切り声をあげるようなわかりやすい展開ではなく、陰湿で、何ともあと味の悪い雰囲気が漂う作品が精選されている。難解な単語も多く、率直に申せば読みやすい文章ではないものもある。僕に至っては、辞書を片手に立ち止まりながら、ようやく読破したといった塩梅だ。ただ、英国文学に通じていない自身でも知っているようなバイロンや小泉八雲をはじめ、インターネットで詮索しても情報が乏しい作家と作品が一堂に会するのは胸が弾む。中でも、探偵小説「プリンス・ザレスキー」の生みの親としても知られる、M.P.シールの三作は、短編ながらも読み応えがあり、独特のユーモアがある。さらに、本書の舞台となる場所もイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、オーストラリアなど英国連邦を中心としている。加えて、時代背景もまちまちであるため、様々なトリップを味わいながら読書に没入するのもいいものだ。涼しく夜の長い秋に、読書に耽ってみてはいかがだろうか。
英国幽霊奇談
Photo&Text by Shogo Hesaka

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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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