2019.04.12

ブリティッシュ“ライク” アガサ・クリスティーの初映画化作品「ねじれた家」

推理小説には個性的なキャラクターの登場が付き物だ。贔屓にするキャラクターを見出せば、おのずとそのシリーズを追いかけてしまうものだ。自身の場合は、フィリップ・マーロウ、エルキュール・ポアロ、エラリー・クイーンなどがそれに当たる。最近では、皇后陛下も愛蔵されていらっしゃることで話題になった、P.G.ウッドハウスのジーヴスシリーズも独特のユーモアがありほくそ笑んだ。これらの作品は、文学としての魅力だけでなく、服装についても細かく触れられているのが面白い。つまり、アイコンとして扱いやすいという利点も映像化に至る理由に違いない。しかしながら、今回紹介する作品には、エルキュール・ポアロやミス・マープルといったアガサ・クリスティーの人気キャラクターは登場しない。すなわち、クリスティーファンを除いて一般的な認知度はそれほど高くない作品の初映像化作品である。ちなみに、アガサ・クリスティー自身は、作者が選ぶ自作ベスト 10 に「ねじれた家」を上位選出している。この“ねじれ”も踏まえて堪能いただきたい。

一代で巨万の富を築いた大富豪アリスティド・レオニデスの訃報が英国に知れ渡る。そのニュースを知った私立探偵チャールズのもとに一人の女性が現れる。それは、亡くなったレオニデスの孫娘であり、かつての恋人ソフィアだった。彼女は、祖父の死は一族の何者かの手による他殺である可能性を告げる。チャールズは、忽然と姿を消した元恋人の登場に困惑し一度は依頼を断る。釈然としない彼は、かつてスコットランドヤードで名を馳せた父の同僚であるタヴァナー主任警部のもとを訪れる。警察は、事件の可能性を疑うものの、検視結果だけでは証拠が足りず殺人とは断定できずにいた。また、本格的な捜査に動き出せばマスコミが騒ぎ出し、格好のスキャンダルとなることを懸念していた。雇われた探偵であれば屋敷内を自由に出入りできる特権を活かし、チャールズはソフィアの依頼に応じるためにレオニデス邸へと赴く。
本作の主役は元外交官の私立探偵チャールズ。原作とはプロフィールや設定が変更されたオリジナルキャラクターだ。桁違いの頭脳があるわけでもなく、個性的なルックスがあるわけででもなく、常人離れした特技を持っているわけではない。かといって決して無能な訳ではない。この形容し難い点が最大の特長で、古今目にしてきた探偵像とは異なる。それはひょっとすると、彼を除いた登場人物の個性が強いからなのかもしれない。はたまた登場人物が意図的に平均的に並べられていて、鑑賞者の目を欺く演出側のトリックなのかもしれない。
主要キャストはマックス・アイアンズ、ステファニー・マティーニ、グレン・クローズなど老若男女バラエティに富む。中でもタヴァナー主任警部役で登場する英国人俳優テレンス・スタンプは白眉だ。優雅なしゃべり方と威厳に満ちた声のトーン、時折見せる茶目っ気ある発言。これぞ“スコットランドヤード”。テレンス・スタンプ以外に考えられない見事な配役だ。
作品を助長する優れた音楽にも耳を傾けて楽しんでいただきたい。本編には、ドナルド・バードの名盤“Up with Donald Byrd”から多くの曲が使用されている。特に名曲“Sometimes i feel like a motherless child”は美しいナンバーだ。ドナルド・バードのスモーキーなトランペットと霊歌を想起させるコーラスが芝居と相まってとかく印象深い。
推理モノゆえに内容についてはあまり深入りできないが、クライマックスの引き際の良さは物の見事だ。延々と事件の解説をしない潔さはミステリーの古典を彷彿させる。近年ではあまり見られなくなってしまった手法である。名作に対するオマージュや憧憬の意を抱くシーンが度々見られるのも古典好きにはたまらない。最後まで緊張感を保ったまま、推理の醍醐味を味わえる映画だ。

映画「アガサ・クリスティー ねじれた家」
4/19(金)より 角川シネマ有楽町、
YEBISUGARDENCINEMA他全国ロードショー
配給:KADOKAWA
ウェブサイト
© 2017 Crooked House Productions Ltd.
Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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