ブリティッシュ“ライク” 映画「キング・オブ・シーヴス」 英国史上最高額にして、最高齢の金庫破り

2020.12.24

映画 キング・オブ・シーヴス
2015年、ロンドンの宝飾店街ハットンガーデンの貸金庫から1,400万£(25億円)相当の宝石や現金が盗まれた。盗まれた金額の大きさに英国中が驚愕するが、さらに驚嘆させられたのは、盗賊の正体が平均年齢 60 歳を超えるシニアたちだったことだ。実際に起きたこの事件をもとに制作されたのが今回紹介する映画「キング・オブ・シーヴス」だ。
主演はマイケル・ケイン、ジム・ブロードベンド、トム・コートネイ、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボン、まさに英国の歴戦の勇士が名を連ねる。ほとんどの面々がこれまでこのコラムで紹介してきた作品に出演しているはずだ。この秀でた俳優たちを一人一人紹介していくと、とてもではないが文字数が足りない。迷った挙句、マイケル・ケイン扮するブライアンの相棒であるテリーを好演した、大好きなジム・ブロードベンドについて触れたい。ジム・ブロードベンドは 1949年、イギリス・リンカン生まれの俳優だ。初めて彼をスクリーンで見たのはおそらく「ブリジット・ジョーンズの日記」だったはずだ。大作では脇役として存在感を放ち、小規模から中規模な作品では主演を担っている素晴らしい俳優だ。僕の大好きなマイク・リー監督作品の常連でもある。そんなジム・ブロードベンドは、どちらかというと好々爺や、柔和なおじさん役を演じることが多い。しかしながら、本作ではこれまでの彼のイメージを覆すようなキャラクターを演じており驚かされた。ここまで汚い言葉を使い、極悪非道な彼の姿が映っている作品は記憶にない。ジム・ブロードベンドファンにとっては新鮮な作品なのではないだろうか。
映画 キング・オブ・シーヴス 映画 キング・オブ・シーヴス
本作を監督したのは、ジェームズ・マーシュ。以前紹介した、コリン・ファース主演の映画「希望峰の風に乗せて」でも監督を務めた英国人監督だ。ビジュアルのイメージからすると「オーシャンズ 11」のような、華麗で痛快なエンターテインメントかと思っていたらところがどっこい。俗臭芬々で、人間の猜疑心を生々しく描いている。ドキュメンタリータッチを得意とするジェームズ・マーシュらしい作風だ。だが、思わず含み笑いをしてしまうような場面も多々盛り込まれており、娯楽性も帯びているのが特長だ。

ハットンガーデン事件は、英国では非常に有名な事件で、本作以外にも映画化やドラマ化されている。例えば、映画「ハットンガーデン・ジョブ」は、主演をマシュー・グードが担い、バジル目線で物語が描かれている。はたまた「ハットンガーデンの金庫破り」では、ティモシー・スポールが主演し、テリー目線でドラマ化されている。題材は同じながらも、異なる解釈で制作された作品を見比べると、さまざまな可能性が考えられ豊かな見解が生まれる。実際、「キング・オブ・シーヴズ」を含め、映像化された作品はそれぞれ作風がまったく異なっている。それは、未だに逮捕されていない犯人がおり、ヴェールに包まれているのも要因の一つだろう。全容が明らかになっていないがゆえに、物語を構成しやすいのかもしれない。マイケル・ケインをはじめとする熟練の俳優たちは、その不明瞭な部分を芝居で表現し、余白に彩を与えてくれるのだ。

『キング・オブ・シーヴズ』
2021年1月15日金 TOHO シネマズ シャンテ ほか全国順次公開
監督:ジェームズ・マーシュ(『博士と彼女のセオリー』)
出演:マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボン
2018/イギリス/スコープサイズ 108 分/カラー/英語/ DCP 5.1ch 原題『King of thieves 』/翻訳:鈴木恵美/配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
ⓒ2018 / STUDIOCANAL S.A.S. All Rights reserved
kingofthieves.jp
Text by Shogo Hesaka


plofile
部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

部坂 尚吾さんの
記事一覧はこちら

同じカテゴリの最新記事