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作中描かれるのは、異国への優雅な観光旅行、読書やピアノ練習へ没頭する毎日、広い芝生と美しい屋敷、ピクニックを楽しむ紳士たち……。終始一貫して、いにしえの英国紳士淑女の生活が繰り広げられる。
冒頭の舞台はイタリア、フィレンツェ。ペンションのダイニングルームで同じテーブルについているのはロンドン郊外に住むハニーチャーチ家の令嬢ルーシーと、その付き添いで年が離れた従姉のシャーロット。部屋が期待した景色のいい窓のある部屋でなかったことに不満を言っている。そこに、たまたま向かいで息子・ジョージと食事を共にしていた風変わりな英国人、エマーソン氏が「私の部屋は眺めがいいんです。良かったらお部屋を交換しませんか?」と持ちかける……。物語の始まりはこんな感じ。

主人公のルーシーは、お嬢様でありながら自身を取り巻く環境と暗黙の了解に疑問を抱き始めたお年頃。これまでは、生まれ育ったハニーチャーチ家の人々や、地元教会の牧師といった、決まった人との交流がほとんどだった。富豪の息子と婚約し、約束された将来へと向かっていく毎日。ところがある日、口うるさいシャーロットの目を盗んで独りフィレンツェの街に出た際、ひょんなことからジョージと再会し、次第に彼に惹かれていく……。


当初、ルーシーは自身が己の人生や環境に疑問を抱いていることそのものに無自覚でいた。好きな人へ想いを伝えることがどうしていけないのか、どうしてそうしないのか。どうして愛のない結婚を受け入れなくてはいけないのか。もしかして、それらはすべて、ルーシー自身の心に嘘をついているんじゃないか。環境はもちろん、これまでの彼女の人生の選択にも疑問を持ち始める。

当時の規範意識や、ルーシーたちが生まれながらにして置かれてきた環境がそれほど説明されるわけではないので、初見の段階で登場人物の心境を測りかねる場面は多い。ゆえに、主人公らと自らを重ね合わせるのは多くの人にとって難しいかもしれない。ただ、時代と価値観の移り変わりをうら若い乙女と青年の個人的な恋愛を通して体感できる作品であるという意味で見応え充分だ。また、20世紀初頭の英国カントリーサイドでの暮らしぶりや衣裳の美しさにうっとりしつつ、それらが単なる時代風俗ではなく、当時の人々が自分の社会的な立場を示すための「コード」でもあったことに気づかされるのも興味深い。

『眺めのいい部屋 4K』
9月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
(c) 1985 A ROOM WITH A VIEW PRODUCTIONS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ザジフィルムズ
1986年/イギリス映画/カラー/117分/日本語字幕:小飯塚真知子/R15+
原作:E.M.フォースター
製作:イスマイル・マーチャント
監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:ヘレナ・ボナム=カーター『英国王のスピーチ』、ジュリアン・サンズ『異端の鳥』、ダニエル・デイ=ルイス『ファントム・スレッド』、ルパート・グレイブス『EMMAエマ』、ジュディ・デンチ『あなたを抱きしめる日まで』、マギー・スミス『ダウントン・アビー』
公式サイト:https://www.zaziefilms.com/nagame/
ivy
1997年、東京・神田出身。BRITISH MADEエディターとしてWEBコンテンツ制作やイベント企画を担当する傍ら、ライター / DJとしても活動する。トレードマークは伊達眼鏡。趣味は神輿渡御。
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