ナショナル・クリームティー・デイを知っていますか? | BRITISH MADE

English Garden Diary ナショナル・クリームティー・デイを知っていますか?

2021.06.17

現在、私の住むイングランドでは、4段階にわたって行われるロックダウン緩和施作の第3段階にあります。そのおかげで、5月17日以降、それまでは屋外でしか許されていなかった会合条件が変わり、屋内で6人または二世帯が集まっていいことになりました。

それを受けて、5月末の週末にイングランド南西部のデヴォンに住む義父母に会いに行きました。15ヶ月ぶりに会うということで、子どもたちは3週間くらい前から「あと○日でグラニーとグランダドに会えるね~。」と指折り数えていました。私たち夫婦も、前日には「クリスマスの前の晩みたいだね。」とウキウキした気持ちで話しながらも、ようやく叶う義父母との再会が、まだ信じられないような気持ちでした。

デヴォン クロテッドクリームの産地、デヴォンの風景。

再会の週末は、今年、一番美しい日なのではないかと思うほど、初夏の日差しがまぶしい好天となりました。BBCのニュースでも、大勢の人がビーチや公園などでくつろぐ姿を伝えて、イングランド中でロックダウン規制緩和を人々が喜んでいる様子が伝わってきました。もちろん、私たちも、まるでこれまで耐えてきたことへのご褒美かのようなお日様の光を浴びながら、義父母との時間をたっぷりと満喫しました。

と、前置きが長くなりましたが、今日は、義父母の住むデヴォンで有名なクリームティーについてご紹介したいと思います。

というのも、ちょうど今月の25日が「ナショナル・クリームティー・デイ」なのです。あなたは、クリムティーをご存知ですか? 

クリームティーとは?

クリームティーは「ティー」という名前がついていますが、紅茶の一種ではありません。これは、紅茶と一緒にスコーンとクロテッド・クリーム、イチゴ・ジャムをセットにしたもの。イギリス中、いたるところのティールームでいただくことができますが、特にデヴォンとコーンウォール地方のものが有名です。

スコーン イギリスではスーパーでも手軽にスコーンが買えるが、ホームメイドの焼きたてはやっぱり格別。

コーンウォールはデヴォンと同様イングランド南西部に位置し、クリームティーに欠かせないクロテッドクリームの名産地として知られています。

クロテッド・クリーム クロテッド・クリームはスーパーでも購入可能。どちらもコーニッシュ(コーンウォール産)。

クロテッドクリームとは、牛乳を煮詰めて作られるクリームのこと。『The Oxford companion to Food』 という事典によれば、2000年以上前にフェニキア人がコーンウォールにもたらしたといい、約60%の脂肪分を含む濃厚なクリームです(1998年にEU法が規定する原産地名称保護制度で定められた「コーニッシュ・クロテッドクリーム」は、55%以上の脂肪分を含むものと規定されています)。ぽってりとした感触はバターにも似ていますが、しょっぱさはありません。口に入れてみると、日本の生クリームに比べると断然リッチな味わい。クリームティーでは、このクロテッドクリームをスコーンにたっぷり塗るのが特徴です。

クロテッド・クリーム クロテッド・クリームの上部にはクラストと呼ばれる黄色い膜があるのが特徴。

ジャムが先か、クリームが先か

さて、このクリームティーですが、デヴォンとコーンウォールでその食べ方が違うというのは、イギリスの人々なら誰もが知っています。まず、スコーンを半分に割るところまでは同じです(スコーンはナイフを使わずに手で割ります)。その後、デヴォンでは、まずクリームをスコーンの表面にしっかり塗り、その上にイチゴ・ジャムをつけます。一方、コーンウォールの人たちは、まずはジャムを一面に塗って、その上にクロテッド・クリームをスプーンで「ぼとん」と落とします。両者とも、クリームはとにかくたっぷり、というのは共通しているのですが、この順番に関しては、どちらもぜったいに譲ろうとはしません。

クロテッド・クリーム 右側がコーンウォール、左側がデヴォンスタイル。

紅茶をミルクティーで飲む時に「ミルクを先に入れるか、紅茶を入れた後に牛乳を注ぐか」というのも、イギリスでよく知られる論争ですが、クリームティーにおける「ジャムが先か、クリームが先か」の論争も、BBCや一般紙『ガーディアン(The Guardian)』などのマスメディアでも一度ならず取り上げられているほどに有名な話です。

歴史的なことで言うと、コーンウォールにほど近いデヴォン西部のタビストックという町にあったタビストック修道院で、クリームティーの由来とも言える古い記録が見つかっています。それは、997年にバイキングたちによって破壊された修道院を建て直すため、多くの地元の労働者が協力した際、彼らに修道士たちがふるまったのがパン、クロテッド・クリーム、そしてイチゴ・ジャム。つまりクリーム・ティーの元祖だったというのです。そのため、クリームティーの発祥はデヴォンで、それゆえ「デヴォン・クリームティー」が正式なものだと当地の人々は主張します。とはいえ、クリームかジャムのどちらを先につけたかの記録が残っているわけではありません。

デヴォン生まれの義母にこの問題について質問してみました。義母いわく、どちらが正しいかは知らないけれど、自分はクリームを先に塗るというのが義母の答えでした(当然デヴォン式です!)。義母によれば「デヴォンではクリームの方がたくさんあるから、それを下にしてたっぷりつけ、貴重な(?)ジャムは上に少しだけつけた、と聞いたこともあるような気がするけれど」ということでしたが、確証があるわけではないようでした。その後「ジャムの上からクリームは伸ばしにくいから、クリームが先の方が理にかなっていると思う」と付け加えたのには、義母のデヴォン式へのプライドが垣間見れて、ちょっと笑ってしまいました。

4月にこの論争にまつわるニュースがありました。というのは、国内大手スーパーマーケット「セインズベリーズ」のコーンウォール地方にある支店で、クリームが下でジャムが上に乗っているデヴォン式のクリームティーの広告写真が貼られていたのです。これを見た顧客が、コーンウォールの店でデヴォン式を紹介するとはとんでもない、とクレームをつけたことがSNSを通じて広がり、地元紙やBBCラジオでも取り上げられました。

クリームティー フルーツスコーン、右がバターのみ。左はジャム&クロテッドクリーム。コーンウォールではバターのみで食べるのが決まりだそう。

さらにこの時、クリームとジャムの食べ方以外にも、コーンウォールでの伝統として、フルーツスコーンにはバターをつけるだけで、クリームとジャムをつけることは許し難い、ということも指摘されていました(件の広告写真のスコーンがフルーツ入りのスコーンだったためです)。その後、スーパーからはこのポスターが取り外されたということですが、「たかがクリームティー、されどクリームティー」。この論争はきっとこれからも続いていくような気がします。

今回、あらためて両方のやり方で食べてみましたが、個人的にはスコーンの上面にクリームをたっぷり伸ばしてから、その上にしっかりジャムを塗る方が両方の味をしっかり味わえる気がしました。さて、あなたはデヴォン式とコーンウォール式、どちらが好みでしょう?(ちなみに、エリザベス女王はコーンウォール式で食べるそうです。)

最近では、日本でもクロテッドクリームが市販されているとのことですので、今度のナショナル・クリームティー・デイには、ぜひデヴォン式とコーンウォール式の食べ比べにチャレンジしてみてはいかがでしょう。

*ナショナル・クリームティー・デイについて
https://www.creamteasociety.co.uk/national-cream-tea-day



Photo&Text by Mami McGuinness


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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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