I Love エディンバラ国際フェスティバル | BRITISH MADE

極私的イギリス紀行 I Love エディンバラ国際フェスティバル

2019.04.03

エディンバラ城で開催されるミリタリー・タトゥー

ロンドンをスルーしてエディンバラへ

カールトンヒルから眺めたエディンバラの街
「夏にイギリスへ行くならスコットランドの首都エディンバラへ」と、これまでもいろいろな場所で紹介してきたのですが、それは「エディンバラ国際フェスティバル」があるからと言っても過言ではありません。一番混みあう一番料金が高い時期ではあるのですが、初めてイギリスへ行くならマストで行きたい街のひとつです。今回は8月のエディンバラの楽しみ方をご紹介したいと思います。

初渡英で訪れたエディンバラ国際フェスティバル

エディンバラ旧市街のメインストリート「ロイヤルマイル」
だいぶ昔話になってしまうのですが、初めてエディンバラを訪れたのは1983年のことでした。じつはそのときが初めての海外旅行。しかも一人旅であったため、右も左もわからず、言葉もちんぷんかんぷん。「一人で果たして目的地まで行けるのだろうか?」と少々不安な気持ちで訪れたのがエディンバラでした。

当時、エディンバラはまだ世界遺産にも登録されていませんでしたが、旅の準備をしていたとき、ひときわ目をひいたのが「エディンバラ国際芸術祭」と書かれた日本で見た情報でした。

泊まっていたロンドンの大英博物館近くのYWCA(現在は超高級ホテルに改装)で、フロントのおじさんに荷物を預けながら、「次の行き先はエディンバラなの」と言うと、「エディンバラフェスティバルへ行くなら、ミリタリー・タトゥーを見なくちゃね」と言われ、よくわからないまま、軍楽隊によるバグパイプの演奏があるという情報に、ワクワクしながらエディンバラを目指したのでした。当時はミリタリー・タトゥーのチケットを持っていなくても当日券が買えた時代です。

宿泊先はエディンバラ大学の学生寮でした。ウェイヴァリー駅からバスに乗ってなんとか辿り着いたその場所は、その後もエディンバラへ行くたびにお世話になっているPollock Halls of Residence(ポロックホールレジデンス)でした。ちなみに大学寮は夏の期間は一般に開放されており、私は今年もお世話になる予定です。
夏に一般開放されるエディンバラ大学の学生寮

72年の歴史をもつエディンバラ国際フェスティバル

ロイヤルマイルのほぼ中央に位置するセント・ジャイルズ大聖堂
「エディンバラ国際フェスティバル」は世界最大級の芸術祭です。1947年に第1回がスタート。開催シーズンは毎年8月初旬から下旬の3週間。今年で72年目を迎える世界的なイベントです。

開催期間中は、各国から集まるアーティストたちによる演劇、オペラ、クラシック音楽、バレエなど、さまざまなジャンルのパフォーマンスが連日楽しめます。2019年の開催は、8月2日~26日。プログラムが決定するのは3月27日ですので、それ以降予約が始まります。

近年、フェスティバル期間中はチケットがほとんど手に入りません。ほぼ事前に完売してしまうため、フェスティバル通は春からチケットを押さえるのが常識だとか。今はネットでどこにいてもチケットがとれるので、そういった状況も早く売り切れる要因になっているのかもしれませんね。
フェスティバル期間中、大道芸人やアーティストたちが集まるロイヤルマイル

日本の演劇人も参加しているエディンバラ国際フェスティバル

日本の演劇界で、このエディンバラ国際フェスティバルで注目されたのが、1985年に『マクベス』の公演をされた演出家の故蜷川幸雄さんです。このときの『マクベス』がイギリスで非常に高く評価され、その後も蜷川さんはイギリスの演劇界の人たちとコラボレーションされたり、日本の俳優たちを連れてイギリス公演をされていました。

個人的に印象に残っている演出家は、野田秀樹さんです。1990年のエディンバラ国際フェスティバルで、野田秀樹さんの劇団「夢の遊民社」が『半神』という芝居を公演したのですが、イギリス留学中だった私もエディンバラまで見に行きました。翌年1991年には、鴻上尚史さんの第三舞台が公演するなど、80年代後半~90年代、エディンバラ国際フェスティバルに参加した日本の演劇人は、現在の日本演劇界を牽引する存在になられています。

今年は、名優イアン・マッケランのステージが8月22日~25日にありますので、芝居好きが殺到しそうです。この原稿を書いているときにはまだプログラムの詳細は発表されていませんでしたので、詳細はWEBをチェックしてください。
エディンバラ市内にある劇場Traverse Theatre

チケットがとれないなら「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」へ

エディンバラ国際フェスティバルのチケットがとれなくても、フェスティバルの雰囲気を楽しみたい人におススメなのが、「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」です。

以前は演劇中心でしたが、最近はコメディやダンス、ミュージカル、オペレッタ、音楽などのジャンルまで、幅広いパフォーマンスが行われています。

アマチュア、プロ関係なく誰でも参加できるため、現在は毎年2000以上の団体が参加する大所帯に発展し、公演場所も教会やホテルの会議室、大学の空き教室など、さまざまな場所が利用されています。今年は8月2日~26日。「エディンバラ国際フェスティバル」と同時開催です。

イギリスを代表する大女優エマ・トンプソンや『ミスター・ビーン』で有名なコメディアン&俳優のローワン・アトキンソンなども、駆け出しの頃にエディンバラのフリンジに出演していました。

フリンジの方は、パフォーマンスのクオリティにかなり差がありますが、質の高い面白いものもあり、どのパフォーマンスを選ぶかもフェスティバルの楽しみの一つです。
ロイヤルマイルにあるフリンジのチケットセンター

エディンバラの街にあふれるお祭りの高揚感

演劇には興味がない人の場合も、フェスティバル期間中は、楽しめる催しがたくさん用意されています。というのも、1947年にこのフェスティバルが始まってから、1950年にはエディンバラ城で軍楽隊のバグパイプ演奏「ミリタリー・タトゥー」がスタート。1970年には「ジャズ&ブルースフェスティバル」、1980年には「ブックフェスティバル」、2004年には「アートフェスティバル」と、次々にさまざまなフェスティバルが登場したからです。

また、旧市街の目抜き通り「ロイヤルマイル」を始め、市内各所では、数多くの大道芸人たちがパフォーマンスを繰り広げるなど、劇場に行かなくても、お祭りの楽しさや高揚感が街にあふれている姿を体感できます。
子どもたちもパフォーマンスに参加

エディンバラの夏の風物詩「ミリタリー・タトゥー」

エディンバラ国際フェスティバルのハイライトとなるイベントが、「ザ・ロイヤル・エディンバラ・ミリタリー・タトゥー」です。

「エディンバラの夏の風物詩」とも言われ、正式名称より短い「ミリタリー・タトゥー」と、親しみをこめて語り継がれるこのイベントは、エディンバラ城のエスプラナード広場で、1950年から始まった歴史あるパフォーマンス。伝統衣装のタータンのキルトを着た各国の軍楽隊が、バクパイプを弾きながらパレードするショー・イベントです。

「タトゥー」というと「刺青(tattoo)」の方を想像されるかもしれませんが、こちらの意味は「軍隊の帰営ラッパ(tattoo)」のこと。毎年、8月上旬~下旬の夜(日曜を除く)、3週間にわたって開催されています。ちなみに2019年は、8月2日~24日まで。今年はフェスティバル期間より2日短いだけで、ほぼ同日程です。
ミリタリー・タトゥーの会場となるエディンバラ城の入口

年々進化し値段も高騰ぎみな「ミリタリー・タトゥー」

ミリタリー・タトゥーは、年々パフォーマンスのレベルが上がっています。ライティングなどの技術も見違えるほどハイレベルになり、エディンバラ城に写るプロジェクションマッピングもみごとです。毎年出場するメンバーが異なることもあり、伝統を継承しながらも、さらに見ごたえのあるショーに変化しています。

観覧席も2011年から席が新しくなり、席数はなんと8700席。毎年20万人以上の観客が「ミリタリー・タトゥー」を楽しみます。
公演前のエディンバラ城・エスプラナード広場

友人からプレゼントされたプレミアチケット

タトゥーキャスト(軍楽隊のメンバー)たちとの記念撮影
以前は、£20くらいの安い席で毎回観ていたのですが、2012年に初めて正面の席で観覧しました。友人から£150(当時の為替レートで約1万9000円)のチケットをプレゼントされ、誕生日プレゼントと言われ、お言葉に甘えました。

ちなみに、2019年は、スダンダードシートは£33~90。正面のプレミアシートは£170、ホスピタリティーパッケージと呼ばれるチケットは£160~320、正面席のロイヤルギャラリーは£370~520。

現在も「ミリタリー・タトゥー」の公演時間は90分です。
月~金曜日は、21:00~22:30
土曜日は19:30~21:00、22:30~24:00の2回公演で、
土曜日の2回目には花火ショーが加わります。

私のチケットはBruce Packageと呼ばれるチケットで、平日の21時公演のものでした。集合は他のチケットよりも早めで、2時間前の19時。この時間にはエディンバラ城につながるメインストリート「ロイヤルマイル」の前はすでに交通規制が敷かれ、チケットを持っている人と関係者しか入ることができません。

このチケットには、「スコッチ・ウィスキー・エクスペリエンス」(体験型のウィスキー博物館)の見学と試飲がついていました。

ウィスキー試飲は6種類ほど。飲めない私にはもったいない試飲会でしたが、一緒にいた中高年世代の人たちとおしゃべりしながら過ごし、その後、The McIntyne Whiskey Galleryへ移動。このギャラリーで、ドリンクや軽食をつまみながら、タトゥーキャスト(軍楽隊のメンバー)との歓談や写真撮影を体験しました。

「歓談タイム」は、タトゥーキャストと身近に話せる時間です。「どこから来たの?」「どこにステイしているの?」「軍楽隊に入ったきっかけは?」など、たわいない質問をタトゥーキャストにしながら、一緒に記念撮影をしたりして楽しい時間を過ごしました。

タトゥーキャストのメンバーの多くは、イギリス国内だけでなく、スイスやノルウェー、オーストラリア、アメリカ、カナダからも来ており、インターナショナルな顔ぶれでした。
「スコッチ・ウィスキー・エクスペリエンス」内に展示されている世界のウィスキーコレクション
ドリンクや軽食が用意されていたThe Mclntyre Whisky Galleryウィスキーコレクション

斬新な演出とパフォーマンスにうっとり!

ミリタリー・タトゥーの軍楽隊
各国の軍楽隊がパレードをする中、次第に暗くなっていく空
開演15分前には着席するようにとのことで、20:25にタトゥーキャストにエスコートされて会場へ向かった私は、会場のあまりの人の多さにびっくり。私の席は東側正面のセクション8の上の方の席で、公演を正面から見わたせるベストシート。その日は8700席が満席で、遠くない席にいたはずの友人と会うのもかないませんでした。

ショーは、スコットランドとオーストラリアなどの英国コモンウェルス各国からの「パイプバンド」や「ハイランド・ダンサーたちのダンス」をメインに、スイスやノルウェーの軍楽隊も登場し、華やかなショーパフォーマンスを披露してくれました。途中、ディスニーやスーパーマンのようなアニメのヒーローも登場。オーストラリアの軍楽隊は、植民地時代の様子を表現するパフォーマンスから、オーストラリアを代表するPOPシンガー、カーリー・ミノーグの歌までを網羅する幅広さでした。音楽やパフォーマンスに加え、多彩で斬新なプロジェクションマッピングも素晴らしかったです。
エディンバラ城に写るプロジェクションマッピング

チケットは事前予約がベスト

年々チケットがすぐ売り切れると言われる「ミリタリー・タトゥー」ですが、毎年前年の12月からチケット発売がスタートします。

今やネットでどこからでも予約ができる時代ですので、チケット予約も争奪戦状態。会期後半や土曜日の花火があがる2回目の回は、特にチケットがとりにくくなるとのことでした。

席は1から17のセクションに分かれ、セクションの場所によって、チケットの値段が違います。一番良い席は東側の正面席ですが、ここでなくても、どの席からも見られるよう席が造られています。おススメは、やはり正面席とまじかに軍楽隊を見られる各セクションの前方の席です。また、プレミアシートは、スタンダードシートよりも広めで座りやすいので、おススメです。

チケットを取りそびれた人で、どうしても今年観たい方は、「ミリタリー・タトゥー」の観覧付きのイギリスツアーを利用するのも一考です。手数料はとられますが確実にチケットが手に入ります。
おススメはやはり正面席!断然見やすくお値段の価値あり!

ミリタリー・タトゥー観覧で注意したいこと

最後に、ミリタリー・タトゥーを観覧する上での注意事項です。まず、日曜は休みとなるので、スケジュールを組む際は要注意です。特に花火のある土曜公演の2回目はとても人気があるので、かなり前からの予約が必要です。そして、どの公演も1950年以来雨天決行と決まっています。また、雨が降っても傘をさすのはNG。雨が降った場合は雨用のカッパやレインコートが必要ですし、寒さ対策は万全にした方がよいでしょう。

私は初ミリタリー・タトゥー観覧の際、真夏の服で行き、あまりの寒さにこごえ死ぬのではないかと思った記憶があり、周囲のイギリス人たちが「冬のツイードのコート」を着ていたことに仰天しました。

8月とはいえ、日中は半袖でも、夜には冬のように冷え込むエディンバラ。フリースや薄手のダウンコートは必携です。私が観覧した日は快晴のお天気でしたが、薄手のダウンジャケットを着てちょうどよいくらい。それでも下が薄手の夏服だったため、足から冷えてしまい、手袋やウールのひざ掛けを持ってくれば良かったと後悔しました。「ミリタリー・タトゥー」観覧はとてもエキサイティングですが、防寒と防雨対策を十分にして訪れてください。8月にエディンバラへ行く予定がある方は、ぜひとも早めにチケットをおさえてくださいね。
切り立った崖の上にあるエディンバラ城は風が強いことでも有名。「ミリタリー・タトゥー」観覧時は防寒対策を万全に
[エディンバラのフェスティバル情報]
・エディンバラ国際フェスティバル www.eif.co.uk
・ザ・エディンバラ・フェスティバル・フリンジ www.edfringe.com
・エディンバラの全フェスティバル情報 www.edinburghfestivalcity.com
・ザ・ロイヤル・ミリタリー・タトゥー www.edintattoo.co.uk
・ザ・スコッチ・ウィスキー・エクスペリエンス www.scotchwhiskyexperience.co.uk

Photo&Text by 木谷朋子


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木谷 朋子

木谷 朋子

『留学ジャーナル』の編集者を経て2年間イギリスへ留学。帰国後はさまざまな国の文化や旅をテーマに、幅広い分野で取材・執筆・講演活動を行う。NHK文化センター横浜ランドマーク校で『大人のためのイギリス旅行』講座を通年で開講中。主な編著書:『ハレ旅ロンドン~湖水地方・コッツウォルズ』(朝日新聞出版)、『愛蔵版 パディントンベアの世界』(ジャパンタイムズ)、『I Love ピーターラビット』、『英語で楽しむピーターラビットの世界BOOK1、BOOK2』(ジャパンタイムズ)、『英国で一番美しい風景 湖水地方』(小学館)、『ロンドンと田舎町を訪ねるイギリス』(共著・トラベル・ジャーナル)、『イギリス留学』(三修社)ほか多数。

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