2019.03.29

イギリス建築を愉しむ。 見ごたえある迫力の貴族の館「チャッツワース」

Chatsworth House

今回は、イングランド・ダービシャーにある「チャッツワース・ハウス」をご紹介します。
ロンドンから北へ車で約3時間の場所で、映画「プライドと偏見(2005)」のロケ地として有名です。
この館は、デヴォンシャー公爵一家のカントリー・ハウスで、16世紀に建てられた後、1686年~1707年に改築・改装されて、現在のイングリッシュ・バロック建築様式の姿に生まれ変わりました。(その後19世紀にも一部改装・増築をしています。)
このイングリッシュ・バロック様式の主な外観の特徴は、シンメトリー(左右対称)の外形に、ピラスター(壁面についた平らな柱)や、華やかな装飾の付いたペディメント(中央上部の三角部分)を用いて豪華に魅せます。現在の建物は、建築家ウィリアム・タルマン(1650-1719年)によるものです。彼は、イングリッシュ・バロック様式とクイーン・アン様式の巨匠クリストファー・レンの弟子で、チャッツワース・ハウス以外の代表作で有名なのは、グロスターシャーに建つ、Dyrham Park(ディラム・パーク)があります。(2017年にノーベル文学賞を受賞した小説家カズオ・イシグロさんの小説「日の名残り」を映画化(1993年)したロケ地です。)
チャッツワース・ハウスに辿り着くまでは、ゲートや橋を渡りながら、まるで遠足のような気分で進んで行くのですが、その道路脇の芝生には、たくさんの羊が普通に歩いています。
荘厳な建物をバックに、何とものどかで心癒される不思議な組合せです。
入口はここ。朝一番で行きましたが既にもう並んでいる人たちがいました。迫力ある凹凸の素晴らしいゲートの造りに見惚れますが、その下の門扉にも注目です。金色が多く施された装飾豊かな門扉が、淡いベージュ色の石にとても品良く馴染んでいますね。
門を入るとチャッツワース・ハウスの建物が見えてきます。この建物は東西南北すべての面を「顔」としてバランス良くデザインされており、設計のこだわりを感じます。
イングリッシュ・バロックのインテリアの特徴は、天井画や壁画がダイナミックに描かれ、植物・花・人をかたどった装飾材が多用されていることです。
館の入口から入って少し進むと、突如現れる広大な大広間「Painted Hall」です。
このホールを見たくて訪れる人も多いのではないでしょうか。2階まで吹き抜けた空間に、バルコニー状の手摺り、鮮やかな天井画と壁画、模様貼りの床、そして主役とも言える階段のすべてに迫力があります。壮大に美しく描かれた絵は、イングランドをメインに活躍していたフランスの装飾画家Louis Laguerre(ルイ・ラゲール)によるもので、チャッツワース・ハウスのほかにブレナム宮殿でも見ることが出来ます。
中央に配置された見ごたえ満点の階段。奥のアーチの開口に向かって優雅に伸びていくデザインは、貴族の優越感を味わえる場所です。両サイドの曲線を描いたバルコニー、緻密な装飾の施された手摺りはすべて同色で揃えられ、そこに敷かれたカーペットの色柄がアクセントに効いています。
上からの眺めです。見どころに溢れているのがよくわかりますね。なんとこの写真の階段上の中央のアーチと左右の開口部の上の人物像は絵です。先ほどご紹介したアーチへ続くメイン階段と対称になるようデザインされています。
こちらはオークルームと呼ばれる部屋です。壁面はすべて重厚なオークパネルが施されており、ツイスト彫刻の柱や各部の凝った装飾で、ダークブラウンの空間ながらとても豪華で華やかです。
チャッツワース・ハウスのミニチュア模型が展示されていました。建築家である私はもちろん、誰もがワクワクすること間違いなしです。先に書いた「どこの面も顔になっている」こともご覧いただけます。
各部屋で床の仕上げは異なりますが、一番多く見られるのは、床一面に敷き込まれたパーケットリー・フローリングです。これは寄せ木細工の床材のことです。とても美しい見た目と同時に、繊細で壊れやすい欠点もあり、私が行った時は修復中でした。ここまで多くの人が入ることはさすがに想定されていなかったのでしょう。一般のフローリングのようにフローリング同士の接続用の「さね」と「ほぞ」が無いため、元通りにするのは大変な作業です。
ステート・ミュージック・ルームです。写真右のドアが少し開いていて、その奥のドアにヴァイオリンが掛けられていますが、実はこれは絵なのです!
ステート・クローゼットに飾られた皿。17世紀後半にはオリエンタルな食器を壁に飾ることが流行しました。食器を飾るために上部を階段状にデザインされたマントルピースは、1912年にハンプトン・コート宮殿に似せて設置されました。
グレート・ステアーズ(大階段)です。イングランドで一番初めに造られた片持ち階段です。普通階段は両側に壁があって、踏み板を両側に差し込んで支えるのですが、片持ちとはその名の通り片側の壁に鉄骨等を差し込み、片側のみで階段材の荷重を支える階段のことを言います。これにより階段の吹抜けが、より大空間になる効果を与えます。
ライブラリーです。マホガニー材で造作された本棚、そこにぎっしり詰まった本は17,000冊以上あります。天井のゴールドに縁どられた石膏装飾と天井画のコンビネーションも美しいです。
グレート・ダイニング・ルームです。元々は天井の配色と同じ白とゴールドのインテリアでしたが、1996年に壁を赤く改装されています。主に家族で使用されていたダイニング・ルームですが、1832年にこの部屋で初の晩餐会が開かれました。その時のゲストは女王になる前の13歳のヴィクトリア王女と母でした。
スカルプチャー・ギャラリーです。入口にチャッツワース・ライオンと呼ばれる2頭のライオンが出迎え、まるで美術館のような彫像のコレクションが展示されています。
スカルプチャー・ギャラリーとは別の場所に展示されている有名な彫像。映画でも登場しており、左はベールをかぶった女性像「Vailed Vestal Virgin」。 ベールの向こう側にうっすらと見える顔の表情など、石で造られているから驚きです。一見の価値ありです。右は映画の撮影用に造られたダーシーの彫像です。
外壁は、地元で採れる美しいベージュ色のサンドストーン(砂岩)で出来ています。陽に照らされると黄金色に輝く美しい石です。
近くから見ると、建物の様々な場所に陰影が映し出され、非常に趣があります。外の窓枠は、なんとゴールドに塗装されています。外壁の優しい色味にとても自然にマッチして、上品かつ一層の風格を感じさせていました。
外も中も大迫力の館「チャッツワース・ハウス」に訪れてみてはいかがでしょうか。

Chatsworth House
住所: Bakewell, Derbyshire, England DE45 1PP
URL:www.chatsworth.org
Photo & Text by Koichi Obi


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小尾 光一

小尾 光一

工学院大学工学部建築学科卒業後、輸入住宅会社、リフォーム会社勤務を経て、「地面から生えたような」と形容されるイギリスの家に魅了されて渡英を繰り返し、デザイン・知識の習得とともにイギリス建材の開拓を重ね、2000年にコッツワールドを設立。イギリスであれば何処のエリアの建物も、そしてインテリアも実現するイギリス住宅専門の建築家として活動中。日英協会、イギリスを知る会所属。
著書「英国住宅に魅せられて」

ホームページ:
www.cotsworld.com
ブログ:
cotsworld.blog136.fc2.com
Facebook:
www.facebook.com/cotsworldltd

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