BRITISH MADE

Absolutely British カッコよくさりげなく。イギリス紳士のネクタイ美学

2019.06.07

女性の目から男性を見るとき、ネクタイにはどうしても目がいってしまう。

いつも無難な色柄の人、オケージョンに合わせて遊ぶ人、常に一貫したスタイルでバシっと決めている人。そういえば以前の職場で毎日ボウタイを着けてくるイギリス人がいたっけ。ネクタイはどうしたってストレートに個性を語りかけてくるアイテムなのだ。

自分が男なら……? そんなふうに考えたことはないけれど、ネクタイやシャツ、スーツの組み合わせで遊ぶのは楽しそうだと思う。松田優作さんが演じた探偵の工藤ちゃんのド派手なシャツとサスペンダーは文句なくカッコよかったし、憧れの男性ファッションの一スタイルでもある。基本の形が決まっていればいるほど色のコーディネートやディテール、ネクタイのような小物で遊び心を出せるし、自分スタイルを披露することで隠れたキャラをチラ見してもらう愉しみも生まれる。そう考えると小さいけれど多くを語るネクタイのようなファッション・アイテムこそ、19世紀のイギリス紳士たちを虜にしたダンディズムを象徴するものに違いないのだと思う。江戸っ子にとっての「粋」のようなものだ。

今年2月、BRITISH MADEさん主催、英国のストーリーあるクラフトマンシップやライフスタイルを知るスペシャル・ツアー「BRITISH MADE TOURS」に参加させていただき発見できたことの一つに、男性ファッションの奥深さがあった。

革靴の聖地ノーザンプトンでは、全工程手作りのヴィクトリア時代から続くシュー・ファクトリーを見学させていただき、心底感じ入ってしまった。そして今回レポートする「Drake’s / ドレイクス」も、妥協なしの手縫いネクタイで知られるブリティッシュ・ブランドの一つ。BRITISH MADE TOURSで特別にオフィス兼ネクタイ工房を見学させていただいた体験から、ドレイクスがすべての伊達男たちに愛される理由を探ってみたいと思う。
2013年に全社機能をこのビルに移管した際に全面改修し、ピカピカの近代ビルディングに! ここですべてのネクタイがデザイン、製造、管理されているそうです。
ノーザンプトンからロンドンへと場所を移し、やってきたのはトレンド発信地として知られるイースト・ロンドンのショーディッチである。

ほんの20年前まで、このあたりは労働者階級の庶民が数多く住むエリアだった。お世辞にも活気があるとは言えなかったのだが、顧みられなくなった町工場や倉庫群の跡を、若いアーティストやクリエイターたちが活用し始めたことで現在のようなヒップなエリアへと変貌を遂げた歴史がある。

それよりも前の歴史を紡いだのは、17世紀にフランスから亡命してきたユグノー教徒たち。彼らはショーディッチの南に隣接するスピタルフィールズを中心とした一帯に定住し、当時世界最高峰と言われたフランスの絹織物の技術を惜しみなく発展させていった。ヴィクトリア女王の婚礼衣装も、スピタルフィールズの絹織職人が織ったものだ。ほどなくシルク地を使ったテイラー業も盛んになり、たくさんのネクタイがこの地で作られていった。ドレイクスのオフィス兼工房が面している「Haberdasher Street」の「ハバーダッシャー」は、まさに衣料縫製職人や店舗を指す言葉であり、鮮やかに歴史を反映している。
Haberdasher Street、すなわち縫物横丁。きっと様々なモノづくりの職人さんが暮らしていたのでしょう。
ネクタイの起源は、17世紀に流行った幅広のネッカチーフにあるらしい。フランスで起こった「クラバット」と呼ばれるネッカチーフの流行が同時期にイギリスにもたらされ、イギリス貴族によって世界に広まっていったのだとか。19世紀前半にはクラバットの結び方図鑑が出版されるほど紳士たちはその華やかさと複雑さを愛したが、産業革命を境にビジネスマン向けのシンプルな「ネクタイ」へと進化を遂げていったのだという。

現代社会において、ネクタイは男性の必須アイテムだ。化繊+ジェットプリントの布地を使った手軽な工業製品が多く出回るなかで、職人によるハンドプリント+手縫いへのこだわり、クラシカルであると同時にコンテンポラリーで斬新な雰囲気を漂わせるドレイクスのネクタイは、いわば上質を求める現代人にとっての恩寵なのだと思う。「仕立ての良さ」と「快適なつけ心地」は背中合わせの関係で、ドレイクスのネクタイには当然のことながらその両方が備わっている。自分に合ったモノを長く使いたいイギリス紳士に愛される理由が、まさにそこにあるのだ。
こちらは管理部門。アドミンからセールスまでオフィス・ワークはここで。
今回ご案内してくださったセールス・ディレクターのクリス・ガンブスさん(左)。写真右の奥に見えているのは、デザイン企画室です。ここは関係者以外、立ち入り禁止!
ドレイクスのセールス・ディレクター、クリス・ガンブス氏は、英国内やイタリアの高級生地メーカーのみに依頼している同社の布地について、 こう説明する。「全ての生地は裁断する前に入念にチェックし、問題があるものは工場へと戻されます。完璧に見えるものでも、ちょっとしたキズがついていたりすることもあるので、その場合は慎重にそこを避けて布をとるようにします」。

こうした厳格な品質管理は縫製にも広く適用され、製作期間も一つのネクタイを作るのに6〜8週間と長い。「布地を織ったり染めたりプリントしたりといった工程から数えるとそのくらいはかかりますね。出来合いの布地を使う場合は、2週間ほどで完成します。ただし超特急の注文が来たら、1日で作ることもできますよ!」
「柄物はそれぞれの柄がきれいに出るよう注意を払います」とクリスさん。
布に対して斜めにカットするのは、伸縮性を考えてのことだそうです。
布の保管場所。数えきれない種類!
オリジナルのドレイクスは1977年、マイケル・ドレイク氏を中心にアクアスキュータム出身者によって設立された。アクアスキュータムではスカーフの企画を担当していたドレイク氏は、当時ロンドン屈指のネクタイ・デザイナーであった友人のチャールズ・ヒル氏の仕事に惚れ込み、80年代になって「ヒル&ドレイク」というブランドを立ち上げた。チャールズさんがビジネスを退いたことでドレイクスのブランド名で再スタート。2010年にビジネスを引き継いだ現共同オーナーでデザイン・ディレクターのマイケル・ヒル氏は、チャールズさんの子息にあたるそうだ。

創業者であるドレイク氏のすぐそばで長らく共に働き、そのブランド理念を吸収していったマイケル・ヒル氏。彼が掲げるデザイン理念は「堅苦しくないエレガンスを備えたタイムレスなデザイン」だという。まさに我々が今手にしているドレイクスの商品そのものだ。
型紙職人さんが丁寧に作業。ネクタイの基本となる長さは147センチなのだそう。
伝統作法で手縫いしていきます。タイ裏を一本の糸で手縫いすることで柔軟性が増し、身体のラインにフィットしやすくなるのだとか。
現代的なオフィスのような工房に、何人もの職人さんが集まって作業しています。アットホームな雰囲気。
高い縫製技術による仕立ての良さが、ドレイクスの身上でもあります。イタリアのようにクラシックなスタイルを重視する社会で高く評価されていることからも、その実力が伺えますね。
このイースト・ロンドンにあるドレイクスの社屋には、お得なファクトリー・ショップも併設されていて、胸が踊る! 色とりどりのネクタイやポケットチーフ、スカーフだけでなく、クラシックなスタイルのセーターやカーディガンなど、女性でも十分に楽しめるラインナップ。ドレイクスはジャケットやシャツ、ボトムや靴などのデザインも始めていて、すでにトータルなスタイルを提案するメンズブランドとしても大きく成長中だ。
スカーフやセーター、カーディガン、帽子など、女性にも見るべきものがいっぱい。現に私たちの訪問中に女性客の方が明るい色のセーターを購入されていました。
男性へのロンドン土産にお困りの方、ここが来るべき場所!
日本にはない色柄も豊富に揃います。
クラシック × 現代性を掛け合わせるこのセンスが、ドレイクスの真骨頂。
ドレイクスの工房見学ですっかりイギリス紳士の“粋”に魅せられた後は、この日のガイドだったセールス・ディレクターのクリスさんが、素敵なランチの場所へと連れて行ってくださった。車で移動したのは、中心部寄りの隣町であるクラーケンウェル。クリスさんの選択が元祖ガストロパブとして知られるThe Eagleと聞いて、密かにほくそ笑んだ。

パブ文化こそ階級を問わずイギリス紳士が愛してやまないものであり、特にこのイーグルは気取らないエレガンスと渋い男性的キャラクターを備えた、とびきり美味しいガストロパブ。ドレイクスの魅力と相通じるものがあると直感し、さすがのセンスに脱帽した次第。こうした場では誰もが心の鎧を脱いで歓談できるもので、この旅の仲間たちもくつろぎの中で楽しいひとときを過ごすことができた。
ロンドンにおける元祖ガストロパブのThe Eagle。味の方はお墨付きです。インテリアのデザイン・スタジオが集中するクラーケンウェル地区にあるのですが、この辺りはロンドンらしい歴史が詰まった地域でもあります。
オープン・キッチンでシェフとの交流も楽しい! 黒板で本日のメニューをチェック。
とても美味しかったカジキマグロのソテー、ラタトゥイユ添え。
ラム肉は伝統のミント・ソースの代わりにエシャロットのピクルスがいいアクセントに。軽くスープ・ランチもOKだし、パブご飯は肩肘張らずにいただけて、いつも重宝します。
さて、3回にわたって第1回「BRITISH MADE TOURS」のハイライトをお伝えしてきた。実際に参加してみての感想は……素晴らしきブリティッシュネスの再確認をさせていただき、感激の思いでいっぱいになった。日頃何気なく接しているモノの背後に、これだけのストーリーがあるのだと目を見開かされる思い。知っているようで知らなかった「イギリスらしさ」を随所で感じることができる究極の旅でもあった。

BRITISH MADEさんが主催する唯一無二の「BRITISH MADE TOURS」。すでに今年10月催行で第2弾が企画されているようなので、興味ある方はぜひ、ツアー内容だけでもチェックされてみては? 作り手と使い手の間に広がる清澄な海が、実はとても深いことに気づく発見の旅になることは、この私が請け合おう。

2019年10月に開催される第2回BRITISH MADE TOURS はこちらでチェック!
https://www.british-made.jp/topics/201904260032403

Drake’s
https://www.drakes.jp

The Eagle
https://www.theeaglefarringdon.co.uk

○ 第1回ツアー:チーニーについての記事はこちら:
https://www.british-made.jp/stories/travel/201904050031745

○ 第1回ツアー:泊まった宿とヤギ革ブランドについての記事はこちら:
https://www.british-made.jp/stories/travel/201904260032418

○ 第1回ツアー:靴ミュージアムについての関連記事はこちら:
http://www.absolute-london.co.uk/blog/25326
Text&Photo by Mayu Ekuni


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江國まゆ

江國まゆ

ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。

http://www.absolute-london.co.uk

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