映画『帰らない日曜日』に見る失われた世代 | BRITISH MADE Staff blog

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映画『帰らない日曜日』に見る失われた世代

1920年代、第一次世界大戦が終結した欧米は「失われた世代」と呼ばれていました。従来の価値観に辟易とし、心に傷を負いながらも享楽主義に耽る若者たちがごまんと居たそうです。

 

大学時代、ヘミングウェイやフィッツジェラルドの作品の世界観に没頭していた日々が懐かしいです。英文学専攻にいたものの、米文学ばかりを選択授業で履修し、ひたすら読みふけっていました。もし当時の私に伝えることがあるとするなら、ゆくゆくは英国の商品を扱うのだから、英文学の一つや二つ読んでおいて欲しいと迷わずに言います。

 

さて、米文学の中でとりわけ好きだったのは『華麗なるギャツビー』(原題:The Great Gatsby)でした。本作を読んで、体に衝撃が走ったのを今でも覚えています。シャンデリアで綺麗に飾り付けられた邸宅で、きらびやかな衣装に身を包んだ人々が狂騒に耽っている。その一方で、登場人物たちが全員心に何かしらの傷を負った姿に、衝撃を受けました。

 

この物語の主人公のギャツビーは豪華な生活を送るものの、当時の恋人のデイジーのことを忘れられず寂しさが募っています。彼は彼女と別れてからというもの、彼女を再び振り向かせたい一心で富豪になるために悪事にも手を染めてしまいました。

 

当時の世界観に心を奪われたあの作品を、ちょうど先日書店で見つけて購入しました。

実は卒業論文もこの題材を扱って書きました。論文を執筆したのも二年前かと懐かしむような、教授から頂いた愛あるご指摘を思い出して気恥ずかしいような、そんな気持ちで夢中で読み進めたのです。当時は書いた文章を覚えてしまうほど原本を片手に読み、時折キーボードを打つことの繰り返しでした。なので、たとえ訳本を見ても引用箇所を覚えているのは当然なのかもしれませんね。

 

米文学を愛してやまないそんな私ですが、そろそろ英文学や英国映画に触れたいと思っていました。なので先日、ブリティッシュメイドのSTORIESの記事で紹介されたあるイギリス映画を観に映画館に足を運びました。その映画も何と、『華麗なるギャツビー』と同じ1920年代を舞台にした映画だったのです。

 

今回は、映画『帰らない日曜日』(原題:Mothering Sunday)をご紹介します。


© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021

 

・ストーリー

1924年、初夏のように暖かな3月の日曜日。その日は、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される〈母の日〉。けれどニヴン家で働く孤児院育ちのジェーンに帰る家はなかった。そんな彼女のもとへ、秘密の関係を続ける近隣のシェリンガム家の跡継ぎであるポールから、「11時に正面玄関へ」という誘いが舞い込む。幼馴染のエマとの結婚を控えるポールは、前祝いの昼食会への遅刻を決め込み、邸の寝室でジェーンと愛し合う。やがてポールは昼食会へと向かい、ジェーンは一人、広大な無人の邸を一糸まとわぬ姿で探索する。だが、ニヴン家に戻ったジェーンを、思わぬ知らせが待っていた。今、小説家になったジェーンは振り返る。彼女の人生を永遠に変えた1日のことを──。

公式サイトより

 

ぜひご覧いただきたいのが、イギリスの田園風景の美しさです。特に、青々とした森に囲まれたシェリンガム家への道のりを、自転車に乗ったジェーンが心地よさそうに駆け抜ける場面は思わず見入りました。


© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021

 

ポールの屋敷までの道のりを、意気揚々と自転車でかけていく場面です。ジェーンの視点でのカットも入っていて森の生命力が感じられます。実は、本作が撮影されたのは2020年ごろで、準備段階ではロックダウンに差し掛かっていたそうです。個人的に、1920年代の失われた世代と近年の感染症によるロックダウンは雰囲気が上手くマッチしていたように感じます。本作の舞台は1920年代で、約100年後のイギリスで撮影されたのは何かの縁なのでしょうか。
こちらの記事によりますと、感染症の影響がある中でも制作陣はリモートで会議をしたり、プロデューサーはパリのロックダウンの影響を受け身動きが取れない監督の代わりに、ロケ地の下見に行ったりなど、困難に遭いながら制作を進めたそうです。

 

ハンブルデンの町 - 映画のロケ地

 

こういった背景がある中で制作された本作では、登場人物の中でも、特にクラリー婦人に強い哀愁が感じられました。

「あなたには失うものがない それは強みよ」


© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021

 

これは、悲劇が起こり途方に暮れたジェーンに対し、主人である二ヴン家のクラリー婦人が伝えたセリフです。婦人は息子二人を戦争で失い、上流階級であるプライドを持ち、厳かな態度を貫きます。その一方で、ジェーンは孤児院育ちでまだ半人前のメイドです。豊かな生活に恵まれた婦人が言うからこそ、感慨深いセリフです。対極の立場にある二人のように見えますが、婦人は従来の価値観や暮らしに辟易し、どこか深い悲しみに沈んでいる表情を浮かべたように見えます。また、ジェーンも劇中で、その婦人の悲しみを知っているかのような淡々と日々を生きるような振る舞いがあると感じました。しかし、婦人によって心を奮い立たせられたジェーンはこのセリフを反芻(すう)し、一人前の女性として生きる覚悟を決め、前を向くのです。


ここからは少々ネタバレになってしまいますが、その後書店で働くようになり、ゆくゆくは小説家として大成し、マザリング・サンデーの日のことを想い出し執筆します。その後の婦人がどうなったかという描写はありませんでしたが、何かを失う経験を経て強くなった彼女から、悲しみに暮れた婦人も生きる希望を貰った気がするのです。

 

映画『帰らない日曜日』は、ロックダウン後の静けさに包まれたイギリスにて撮影されました。そういった世の流れを受けた作品は、当時の退廃的な世界の虚しさをより一層際立たせていたように感じます。皆さんもぜひ、機会があったら映画館へ足を運んでみてください。

 

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