ブリティッシュ“ライク” 実話に基づいて描かれたスパイ映画「ジョーンの秘密」

2020.07.23

ジョーンの秘密
2000年5月、ロンドン郊外で静かな生活を営んでいたジョーン・スタンリーは、ソ連に機密情報を流した容疑で突如MI5に逮捕される。亡くなった外務事務官W.ミッチェル卿の遺留品から、KGBと共謀していた証拠が発見されたからだ。調査官による取り調べが行われ、話は彼女がケンブリッジ大学で物理学を学んでいた1938年まで遡っていく。無罪を主張するジョーンだが、驚くべき事実が次々と判明し、彼女の隠された過去が明かされていく。
主人公ジョーンは、スパイであることが発覚したのちに、じつにドラマティックな人生を歩んでいたことがわかった女性だ。実在したスパイ、メリタ・ノーウッドが謎に包まれたジョーンのモデルとなっている。恋人レオとの大恋愛、共産主義への傾倒、英国への愛国心、原爆への恐怖心…ジョーンがスパイとなっていくターニングポイントはいくつかある。しかし、決定的な要因ははっきりしないため、映画の中から推察しなければならない。僕が魅力的に感じたのは、彼女の泥臭さだ。つまり、先述した鍵となるできごとに対して柔軟に対応できず、不安定で揺れる心情が人間らしくて面白い。混沌とした時代背景とも連動し、一筋縄ではいかないことがよく表現されている。結果、ジョーン自身もはっきりとした理由がわからないのではないだろうか。
ジョーンの秘密 ジュディ・デンチ
さて、映画の中では2人の女優がジョーンを演じている。1人目は、すでにこのコラムで何度も紹介してきた名優ジュディ・デンチだ。本作のような、現代と過去を別の俳優が演じる場合、なかなか同一人物に見えず緊張感が途切れてしまうことがある。しかし、ジュディ・デンチは、まるで彼女の実体験のように過去を現代に投影していく。この芝居は彼女の真髄としか言いようがない。そして、若かりしジョーンを演じるのはソフィー・クックソン。「キングスマン」のロキシー役で頭角を表した彼女だが、同じスパイ役でも派手なアクションやCGに頼ることなく丁寧な芝居で物語を彩っている。大女優ジュディ・デンチの陰に隠れることなく話の屋台骨になっている。英、米国の映画やドラマで飛躍するソフィー・クックソンは、今後さらに活躍が期待される女優だ。

最後に、監督を務めたトレヴァー・ナンは、ロイヤルシェイクスピアカンパニー、ロイヤルナショナルシアター、シアターロイヤルヘイマーケットなど、長年英国の舞台で研鑽を積んだ英国人演出家だ。ジュディ・デンチとも付き合いは長く、“トレヴァーが監督だから”という理由で出演を快諾するほど強固な信頼を得ている。本作のような、何をもって正義とするかは立場によって異なり、正解を導き出し難いテーマの映像化に挑戦する姿勢には感服させられる。演出の意図が明確であるため、台詞が一人歩きするような空虚さは微塵もない。鑑賞者に訴えかける強力なメッセージを持った映画だ。
ジュディ・デンチ ジョーンの秘密
映画「ジョーンの秘密」
監督:トレヴァー・ナン 原作:ジェニー・ルーニー著「Red Joan」
出演:ジュディ・デンチ、ソフィー・クックソン、トム・ヒューズ、スティーヴン・キャンベル・ムーア、ベン・マイルズ
配給:キノフィルムズ
2018/英語/イギリス/101分/5.1ch/カラー/スコープ/原題:REDJOAN/PG12 © TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018 字幕翻訳:チオキ真理
ジョーンの秘密
Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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