マイホームを持ちたかっただけなのに‥‥映画「 ビバリウム 」

ブリティッシュ“ライク” マイホームを持ちたかっただけなのに‥‥映画「 ビバリウム 」

2021.02.26

映画『ビバリウム』
マイホームに憧れを抱くジェマとトムは、とある不動産業者を訪れた。そこで紹介されたのは“ヨンダー”と名付けられた新興住宅地だった。不動産業者マーティンに案内され、2人は現地を見学することになった。軒並みそろった家屋の中から案内されたのは9番の家。しかし、一通り見学し終えたところで、不動産業者マーティンは忽然と姿を消してしまう。帰路につこうとする 2人だが、同じところを行ったり来たりの繰り返しで一向にヨンダーから出ることができなくなってしまう。観念した2人は謎の9番の家に宿泊する。ところが、翌朝9番の家の前には思いもよらぬ物が置かれていた…
映画「ビバリウム」を監督したのは、ロルカン・フィネガン。アイルランドでグラフィックデザインの学士号を習得したのちにロンドンに移り、モーションデザインや編集を担当。その後は短編映画、ミュージックビデオ、CMなどで幅広く活動し、本作でカンヌ国際映画祭ギャン・ファンデーション賞を受賞している。大々的に日本で公開されるのは本作が初めてで、受け手によっての評価が極端に分かれそうな作品だ。クセの強い監督なだけに、どういった反応が出てくるのかが楽しみであり、次回作以降が非常に待ち遠しい。そして、この個性的な作品で主演を務めたのが、ジェシー・アイゼンバーグとイモージェン・プーツだ。不快感、動揺、怒り、絶望などさまざまな感情表現を使い分け、緊張感を途切れさせることなく、鑑賞者をあおり続けていく臨場感は見事だとしか言いようがない。
映画『ビバリウム』
この物語の設定や登場人物は、必要最低限に整理されているためシンプルだ。にもかかわらず、エンドロールが流れ始めたあとの釈然としない感覚は久しぶりに味わった。精神を狂わされるような不測の事態がまるでテトリスのようにどんどん上から降ってくる。原因、理由、法則を推察してもその真意が見出せず頭を抱えてしまう。そして、振り出しに戻り、そもそもなぜジェマとトムはこれほどの仕打ちを受けなくてはならないのか。そこに意味などないと悟ったときに幕は閉じ、煙に巻かれてしまうのだ。

こういった映画を鑑賞すると、作り手の強いメッセージがいたるところに込められているのではないだろうかと勘繰ってしまう。たとえば、生活必需品が段ボールに詰め込まれて届けられるのは AMAZONへの風刺だろう。最終的に赤ん坊までがそれに詰められて送り届けられるのは度肝を抜かれるともに、警鐘や暗示が含まれているように感じられた。他にも、無機質な家で、温かみの感じられない摂餌とも捉えられるような食事風景。嘲るようなトムの墓穴掘りもなかなかのいやらしい当てこすりだ。冒頭、ジェマは少女に自然の摂理を説くが、それが巡り巡って自分にもやってくるのは痛烈な皮肉だ。このように、本作には多くのギミックがあり、我々が生きる現実社会の問題を映画の中へ投影させている、非常に見応えのある佳作だ。
映画『ビバリウム』
『ビバリウム』
2021年3月12日(金) TOHO シネマズシャンテ他全国公開
監督:ロルカン・フィネガン
脚本:ギャレット・シャンリー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ、ジョナサン・アリスほか
2019|ベルギー・デンマーク・アイルランド|英語|98 分|シネマスコープ|原題:VIVARIUM|字幕翻訳:柏野文映|R-15
提供:パルコ、オディティ・ピクチャーズ、竹書房 配給:パルコ
ⓒFantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film
Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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