アップデートの春。3枚の新作。 | BRITISH MADE

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2021.04.09

リンゴ・スター、ストラータ、セレステ。注目の新作を紹介

春ですね。どうやらライブの本格的な開催までにはまだまだ時間を要するようですが、新作のリリースは徐々に活発化を見せています。今回はその中から各々のキャリアやジャンルをアップデートさせる力を持った3枚の新作をピックアップしました。

■ リンゴ・スター『ZOOM IN』

まずはリンゴ・スター。これまでにポール・マッカートニーの新作、盛況のうちに幕を閉じたジョン・レノン東京展、8月公開予定の映画『ザ・ビートルズ:Get Back』などのトピックをご紹介してきましたが、その折にも触れていたリンゴの5曲入りEP『ZOOM IN』がリリースされました。
野球もバンドも面白いもので、4番打者クラスだけで組めばいいチームになるかと言うと、必ずしもそうではなかったりします。いや、リンゴだってすごいんですよ? でもビートルズというバンドの中で、結果論とは言え、やっぱりリンゴのキャラクターはとても重要且つ貴重なものだったはず。この新作EPからも彼のピース&ラブな人柄と社交性が伺えます。

リードトラックの「ヒアズ・トゥ・ザ・ナイツ」はゲスト・ヴォーカルにポール・マッカートニーをはじめジョー・ウォルシュ、シェリル・クロウ、コリーヌ・ベイリー・レイ、ビリー・アイリッシュの兄のフィニアス、デイヴ・グロール、ベン・ハーパー、レニー・クラヴィッツら豪華メンバーが参加しています。
ソングライティングは(自らも参加しつつも)ダイアン・ウォーレン、近年は嵐の曲も手掛けたサム・ホランダー、ブルース・シュガー、TOTOのスティーヴ・ルカサーといったソングライターたちに委ねています。

3曲目にはドアーズのロビー・クリーガーが参加していて、ちょっとビートルズ+ドアーズな感じのアレンジが聴けます。ロック、ブルース、ポップ、レゲエ(ボブ・マーリー)オマージュ、そして現在住んでいるアメリカ西海岸風味(5曲目。ビートルズ+ビーチボーイズな曲にTOTO風味のギターをまぶした感じ)と、コロナ禍を過ごす彼自身の心境やメッセージをカラフルなエッセンスで鮮やかにまとめ上げています。もちろんドラムも叩いています。5曲入りEPという尺も手伝って、テレワークの合間のひと時にも気軽に楽しめるはず。多くの人に愛されるビートルズ風味とコロナ禍の中も変わらぬリンゴらしさがおおらかにアップデートされた一枚だと思います。

■ ストラータ『アスペクツ』

続いてはストラータ(欧文表記はSTR4TA)の『アスペクツ』です。
かの名DJジャイルス・ピーターソンとインコグニートのブルーイがタッグを組んだ、その筋が好きなリスナーにとってはまさに夢のユニット。かつてのインコグニートに代表されるブリット・ファンクの2021年版アップデートというサウンドです。スラップ・ベースもクロスオーバーなシンセも(日本では昨今ちょっとブームな)シティ・ポップ風のボーカルも、もう全てがちょうど良くて無茶苦茶気持ちいい!
ひと昔前の煙草かお酒のCMみたいなことを言いますが、このくらい緻密なアフロ・ビートでこの軽さを実現しているのは流石の手腕。全編ひたすら身を任せてしまう心地よさ。

ちなみに国内盤CDに付属のライナーノーツは沖野修也氏が担当。氏の興味深いエピソードやジャイルズへのzoomインタビューの模様も交えながら、ブリット・ファンクのヒストリーを一望することの出来る秀逸なテキストですので是非とも御一読を。

■ セレステ『ノット・ユア・ミューズ』

最後にご紹介するのはセレステのデビュー・アルバム『ノット・ユア・ミューズ』です。
セレステは94年カリフォルニア生まれ。イギリス人の母とアメリカ在住ジャマイカンの父を持つ彼女は、両親の離婚を機に3歳から母親とイギリスで暮らし、アメリカのソウルやジャズをはじめ様々な音楽を愛聴してきたそうです。10代から音楽活動を開始すると早々に注目を浴び、20歳から活動が本格化。15年にはアヴィーチーのアルバムでゲスト・ボーカルに招かれていました。

2020年にはBBC Sound Of 2020をはじめ数々の音楽賞を受賞。Netflix公開の『シカゴ7裁判』やピクサーの『ソウルフル・ワールド』(UK版)といった話題の映画にも楽曲提供を行っています。
日本盤CDのライナーノーツ文中でも指摘されていますが、エイミー・ワインハウスと比較されるというのも頷けます。出だしはハスキーかと思いきや、一度ロングトーンになるとこの上なくシルキーでソウルフルな歌声のインパクトが素晴らしい。そして要所で抑制を効かせたR&Bアレンジとメロディといい、“理想の女性とは違うかもしれない”、“私はあなたのミューズじゃない”と確固とした意思を歌うリリックといい、まさに女性ソウルボーカルの歴史でありブリティッシュ・ソウルの歴史をアップデートさせる存在と言っていいでしょう。

プロデュースやソングライティングには現在イギリスで引っ張りだこの面々が名を連ねていますのでクリエイターの側面からも最新のUK音楽事情を伺い知ることとの出来る作品ですね。全体的に足し算ではなく引き算というか、決して“盛り過ぎない”組み立てのアレンジセンスも今っぽい。アレサ・フランクリン、ニーナ・シモン、エラ・フィッツジェラルド、コリーヌ・ベイリー・レイ、そしてアデルといった名前にピンと来るなら、きっと気に入ってもらえるシンガーだと思います。

いかがでしょうか。ちなみにこの3枚、先日、渋谷のタワーレコード本店でCDを購入しました。そして文中の通り、アーティストのバイオグラフィーについてはいずれも国内盤CDのライナーノーツを参考にさせていただきました。ストリーミングはもちろん便利ですが、やはりリアルショップの店頭にはリアルだからこその出会いや閃きの楽しさがあるし、フィジカル付属のライナーノーツは多くの情報を与えてもらえるなあとしみじみ。いずれも興味を持っていただけたらうれしいです。それではまた。

*文中のアーティスト/アルバム及び楽曲タイトル表記はいずれも日本盤CDに準じています。


Text by Uchida Masaki


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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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