誰かを助けることで自分自身も助けられる、映画「サンドラの小さな家」 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 誰かを助けることで自分自身も助けられる、映画「サンドラの小さな家」

2021.03.25

サンドラの小さな家
2 児の母であるサンドラは、夫の暴力から逃げホテルに仮住まいをしている。パブや清掃の仕事を掛け持ちしながらなんとか食いつないでいるが、勤務先までは遠く、ホテルでも邪険に扱われていた。公営住宅に住める順番ははるか先で見通しが立たない。ある日、サンドラは、 DIY で家を建てるというサイトを目にし、自分の家を持つということを夢想する。そして、現状の変化や環境の改善を求め、家を建てる準備を始めていく。
主演のクレア・ダンは、まさに本作の支柱ともいえる存在だが、主演と同時に脚本まで担っているというから驚きだ。彼女がニューヨーク滞在中、友人の身に起きたショッキングなできごとを、ある種の使命感と共に書き上げたのが経緯だ。そして、監督を務める名匠フィリダ・ロイドが参加条件としたのは、クレア自身が主演も務めるということだった。クレアにとっては厳しい条件であったかもしれないが、脚本と主演を担った結果、サンドラというキャラクターに入り込みやすかったのかもしれない。たとえば、見ず知らずのママ友に「家を建てるから良かったら手伝いに来て欲しい」と唐突に発言するシーンは印象的だ。サンドラは、情熱的で忍耐強い性格だが、総じて言葉足らずなのが玉に瑕だ。突拍子のない彼女のキャラクターにリアリティがあり、奥行きを感じさせられた。そして、先に触れたフィルダ・ロイドの演出が加わり、名優ハリエット・ウォルターやコンリース・ヒルが強力なアシストをしている。それらが相まって、まるでケン・ローチやマイク・リーの作品を見ているような、深みのあり、味のある世界観が構築されている。
サンドラの小さな家 サンドラの小さな家
劇中に登場する“メハル”という美しい言葉がある。ゲール語で、簡単に説明すれば、みなが集まって助け合うことで、結果自分も助けられるという意味だ。まさに、この映画の内容を一言で表現しているようだ。家というのはただの過程にしか過ぎず、どう進んでいくのかはサンドラ次第。その道筋が丁寧に描かれていた。原題“herself”と名付けられているのは、言い得て妙である。前回紹介した映画「ビバリウム」に続き、偶然にも家がキーワードとなった。加えて、またしてもイギリスとアイルランド合作映画であり、いまだ足を踏み入れたことのない国アイルランドに不思議と縁を感じた。4つの連合王国のうち、イングランド、スコットランド、ウェールズには訪れたが、最後に残っているのが北アイルランドだ。自由に海外へ行けるようになったあかつきには、アイルランドと北アイルランドに訪れたいものだ。
『サンドラの小さな家』
4月2日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
公式サイト:https://longride.jp/herself/
監督:フィリダ・ロイド(『マンマ・ミーア!』、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』)
共同脚本:クレア・ダン、マルコム・キャンベル(『リチャードの秘密』)
出演:クレア・ダン、 ハリエット・ウォルター(『つぐない』、「ザ・クラウン」)、 コンリース・ヒル(「ゲーム・オブ・スローンズ」)
2020年/アイルランド・イギリス/英語/97min/スコープ/カラー/5.1ch/原題:herself/日本語字幕:髙内朝子
提供:ニューセレクト、アスミック・エース、ロングライド 配給:ロングライド
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020

Text by Shogo Hesaka


plofile
部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

部坂 尚吾さんの
記事一覧はこちら

同じカテゴリの最新記事