スコットランドのビールとその歴史 | BRITISH MADE

Story of Barleycorn スコットランドのビールとその歴史

2022.10.06

筆者は仕事を少し休んでスコットランドに来ています。

この記事を書いているのはスコットランドのスペイサイド地方にあるキースという街で、今日はエリザベス女王の国葬ということもあってスコットランド中が静まり返っていて、スーパーやガソリンスタンドも営業を休むほど。

ウイスキー蒸溜所を巡っている途中ですが、ウイスキーの記事はまた今度ということで、今回はビール連載の流れを汲んでスコットランドのビール事情について書いてゆきます。


スコットランドとビール

スコットランドはイングランドと同様にビールの消費量が非常に多いです。

先程、パブで隣で飲んでいたスコットランド人はパイント(568ml)のグラスを5杯飲んだ後にウイスキーを飲み始めるという、ちょっと体の作りの違いを感じる飲み方をしています。。

ちなみにスコットランドでは『PUB』という看板はほとんどなく、内容はパブですが『BAR』と表記されていることがほとんどです。ここにもイングランドとの微妙な違いを感じます。

パブに行くと必ずローカルビールをまずパイントで飲みたい筆者ですが、それよりもスコットランド中のどこでも飲めるビールがあります。

それが『TENNENT’S』です!
スコットランドのビールとその歴史 TENNENT’S(テネンツ)ビール
スコットランドで「とりあえず生!」と頼めばこのビールが出てくるのではないでしょうか。(*そんな文化はありません)ラガーはとにかくどこに行ってもテネンツが置いてあります。

日本の大手ビールメーカーのビールと比べるとアルコール度数は4%と低めで、麦の甘みと香りを感じるまろやかな味わいになっています。また、ぬるくなっても美味しいので、ゆっくり飲めるのも特徴です。

この記事を書いている間もスーパーで買ったロング缶4本セットで5ポンド(800円くらい。安い!)のテネンツをゆっくり飲みながらパソコンに向かっています。


クラフトビールも熱い

いまや世界を席巻しているクラフトビールですが、その先駆けとなったのがブリュードッグです。実はこのブリュードッグもスコットランド。醸造所はアバディーンというスコットランドで3番目に人口の多い街にあります。

その他にも街ごとにローカルビールがあるので街のパブに入るのが楽しみになります。今夜泊まっているキースにもKeith Breweryというローカルビールがあります。
スコットランドのビールとその歴史 Keith Brewery
全体的にイングランドのブルワリーに比べて前衛的なビールが多い印象です。これはおそらく大手がエールを造っているイングランドに対して、スコットランドはクラフトビールにエールを譲っている構図に自由なビール作りの背景があるのではないでしょうか。


スコットランドのビールの歴史

スコットランドでのビールの歴史は5,000年前に遡ります。スカラ・ブレイ(スコットランドのオークニー諸島に残る新石器時代の石造の集落遺跡)など新石器時代の遺跡で大麦からエールビールが作られた可能性を示す記録が見つかっています。

スコットランドのエールは、ケルト族やピクト族を含むさまざまな北欧の部族によって作られたクワス(伝統的な微炭酸の微アルコール性飲料)やグルートのように、シモツケ(バラ科の落葉低木)で味付けされていました。
スコットランドのビールとその歴史 新石器時代の石造集落遺跡 スカラ・ブレイ新石器時代の石造集落遺跡 スカラ・ブレイ スコットランドのビールとその歴史 シモツケシモツケ
また、苦いハーブを使用するケルトの伝統は、ヨーロッパの他の地域よりもスコットランドに古くから残っていることがわかっています。 古代ギリシャの地理学者であるピュテアスが、紀元前325年にカレドニアの住民が強力な飲料を醸造する技術に熟練していたと記述しています。

「エール」の語源がケルト族のゲール語であることも、スコットランドでのエールビールの歴史と人々との関わりを示唆しています。

ビールの風味付けと保存のためのヘザーなどの苦いハーブの使用は、イギリスの他の地域よりもスコットランドで長く続きました。 1769年の記録には、スコットランドのアイラ島では「エールは若いヘザーの花の上部を使用して作られることが多く、その植物の3分の2を麦芽の1つと混ぜ、時にはホップを追加する」と書かれています。 その後スコットランドビールもイギリスの他の地域と同様に、19世紀の終わり頃までにホップがハーブに取って代わりました。
スコットランドのビールとその歴史 ヘザーの花ヘザーの花
スコットランドでは、イギリスの他の地域よりも古代の醸造技術と原料が引き続き使用されていましたが、主な醸造は他の地域と同様に修道院の手で行われました。 ただし、醸造原料の場合と同様に、開発はゆっくりと進む傾向にありました。

1509年、アバディーンには150人以上の醸造者(すべての女性)がいました。 ロンドンでは290人の醸造者のうち約40%が男性だったことからもケルト神話同様、女性の立場が強かったことがわかります。1560年代以降の商業醸造は、1598年のエジンバラ協会の設立によって確立し発展しました。

1707年の連合法の後、 ビールに対する税金はイギリスの他の地域よりも低く、スコットランドではモルトに対する税金もありませんでした。これはスコットランドの醸造者にとって経済的な利益をもたらしました。1719年ダンバーで、ダジョン&カンパニーのベルヘイブン醸造所が設立されるなど、18世紀にはスコットランドのビール醸造はさらに盛んになり、特にエジンバラには40の醸造所がありました。その醸造規模は世界最大に匹敵しようとしていました。

また、ペールエールがバートンで最初に醸造されたと考えられる1年前。 エジンバラのキャノンゲート地区にあるロバートディシャー醸造所が、エジンバラペールエールで大成功を収め、他のエジンバラの醸造家が続きイングランドやロシア、アメリカに強いホッピースコットランドビールを輸出していたという説もあります。

この頃、スコットランドのほとんどの醸造所はエジンバラとアロアの町など低地に発達し、世界中のビールの輸出の中心地として有名になりました。20世紀の終わりまでに、小さなビール醸造所がスコットランド中に生まれました。


日本で飲めるスコットランドのビール

  • ブラックアイル
  • スコットランドのオーガニックビール!1998年、『ブラックアイル』はスコットランドの北部・ハイランド地方の中心、インヴァネスにおいて設立されました。2009年には、スコットランドの重要なビアコンペティション「スコットランド・インターナショナル・ビア・アワード」にて金賞を受賞し、スコットランド国内はもとより、アメリカ・ヨーロッパ各国で愛されています。
    日本で飲めるスコットランドのビール ブラックアイル

  • ブリュードッグ
  • ブリュードッグは、2007年、UK・スコットランドで創業者ジェームズ・ワットとマーティン・ディッキー+愛犬1匹で創業したクラフトビールメーカー。常識にとらわれないパンクな精神で世界中に衝撃を与え続けている。
    日本で飲めるスコットランドのビール ブリュードッグ

  • ベルヘイブン
  • 1719年に設立されたBelhaven Breweryは、スコットランドで最も古い現役の醸造所です。ダンバーに位置する醸造所は、エディンバラからわずか20マイルのイーストロージアンの起伏のある大麦畑に囲まれています。スコティッシュエールやオートミールスタウト、スコットランドの国花であるアザミのIPAなどスコットランドらしいビールラインナップでどのビールもとてもクオリティーが高いです。
    日本で飲めるスコットランドのビール ベルヘイブン
    Text&Photo by Yuta Yuasa


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    湯浅 雄大

    湯浅 雄大

    1988年東京都生まれ。京都にてバーテンダー修行を積んだ後、赤坂、代官山、中目黒のバーにてチーフバーテンダーを歴任。スコットランド文化とスコッチウイスキーに惹かれ、ギター片手にスコットランドの蒸溜所を巡りはじめる。2019年、約1ヶ月間のスコットランド旅からの帰国後『株式会社Valve』を創設し、代官山にてスコティッシュパブ『valve daikanyama』をオープン。2021年10月に『株式会社valve works』を設立し、ビールを中心にClassicをテーマにした一流のプロダクト造りに尽力している。
    https://valvedaikanyama.com/

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