BRITISH MADE

極私的イギリス紀行 イギリスの温泉町 21世紀のバースに蘇ったサーメ・バース・スパ

2019.01.23

屋上に建設されたイギリス版露天風呂「ルーフ・トップ・プール」 ⒸThermae Bath Spa

イギリス初の天然温泉施設
多くの出資者によって建設計画が実現

バースは世界遺産の町として知られる有名観光地ですが、今回ご紹介する『サーメ・バース・スパ』がその近くにあることをご存じでしょうか?

オープンしたのは2006年8月ですが、このスパ建設計画がもちあがったのは90年代後半。ヨーロッパの温泉が大好きな私は、オープン前から「いつオープンするの?」「オープンしたら必ず連絡をください」と、日本から何度も催促メールを出していました。

さすがにその効果があったのか、オープン後には体験取材もさせていただきました。その後は、プライベートで訪れたり、『ハレ旅ロンドン』(朝日新聞出版)にも紹介していますが、バースを訪れる日本人は多くても、『サーメ・バース・スパ』にまで足をのばす人はまだそれほど多くないようです。
ガラス張りのモダン建築と歴史的な5つの建物を融合したイギリス唯一の天然温泉施設 ⒸTomoko Kitani
私が『サーメ・バース・スパ』に興味があったのは、ここがいわゆる高級ホテルやリゾートの中にある高級スパとはコンセプトが違っていたからでした。

観光客だけなく、地域住民にも利用してもらえるような施設であることと、古くからある歴史的な温泉施設を現代に蘇らせるという難事業を経て完成したことに注目していました。

このスパ建設プロジェクトは、ミレニアム・コミッションが主な資金を提供し、バース&北東サマーセット・カウンシル(バース市とサマーセット州)、サーメ・ディベロップメント・カンパニー、バース・スパ・トラスト、欧州地域開発基金、地元の有志からの寄付金など、地元が多大な協力資金を供出する形で完成した一大事業でした。

2003年オープン間際になって突然オープンできなくなったのも、出資者が多く存在していた複雑な経営事情があったからです。完成が遅れた主な原因は、建設地の建物が考古学上重要な歴史遺産であったことから、現代的なスパ施設と、考古学上残さなくてはならない部分をどうコラボレーションさせるかを検討するのに時間がかかったからといわれています。
水着にバスローブをはおったまま利用できる「スプリング・カフェ・レストラン」 ⒸThermae Bath Spa

歴史的なスパ施設を再現したクロス・バスは必見

『サーメ・バース・スパ』は、バースの温泉町としての歴史の延長線上にあります。古くから残る石造りの建物とガラス張りのモダンな建物を融合させ、歴史的遺産として残る5つの建物を修復して造られているだけに、バースの温泉町として歴史の深さを感じさせる施設になっています。

注目したいのは、17~18世紀に最もファッショナブルと言われた「クロス・バス」を現代に蘇らせていること。16世紀~18世紀にかけて、多くの王侯貴族が温泉保養することでバースの町は高級温泉保養地として脚光を浴びましたが、「クロス・バス」はその時代に王侯貴族たちに最も人気があった温泉でした。

そのきっかけを作ったのが、ジェイムズ二世の王妃メアリーで、不妊症だったメアリー王妃が、この温泉で不妊症を治し皇太子を生んだことから、「クロス・バス」の温泉の効能は、上流階級の人々の口コミでまたたく間に広がり、その後、王室関係者はもとより貴族たちがこぞってバースを訪れるようになる大きな原動力になったのです。

そんな歴史をもつ「クロス・バス」ですが、現在はメインスパの「ニュー・ロイヤル・バス」のはす向かいに独立してあり、メインスパとは別料金になっています。メインスパのスパ・セッションが2時間からであるのに対し、「クロス・バス」は1時間30分からと気軽に短時間で入れるようなシステム。特にバースとノース・イースト・サマーセット(バースと近くの北東サマーセット州)の住民は、一般料金の半額で入れるなど、優待料金が設定されています。

個人的には、「ホット・バス」の建物の一部にも、17~18世紀の建物が残っていたのが印象的でした。「ホット・バス」はスパ・トリートメントを受ける人だけが利用できる温泉で、このスペースにはトリートメント・ルームのほか、トリートメント利用者専用の休憩スペースなども設けられています。
別館になっている「クロス・バス」。静かな雰囲気で短時間利用できるのがメリット ⒸThermae Bath Spa

レジャー施設としての魅力も兼ね備えたスパ複合施設
18世紀の温泉道「バース・ストリート」沿いに建設

メインスパの「ニュー・ロイヤル・バス」には、4つの温泉プールとスチーム・ルーム、レストラン&カフェ、ショップ、会議室。そして、マッサージ・スイートとホット・バスの2つのスペースに、合わせて20室のトリートメント・ルームがあります。

イギリスで唯一天然温泉が体験できる温泉施設としてだけでなく、リラクゼーションやレジャー施設としても利用できるような工夫も随所にみられ、屋上に造られたルーフ・トップ・プールからはバースの町が一望できるとあって、お風呂好きの日本人にはぜひ一度体験して欲しい温泉です。

『サーメ・バース・スパ』が建つエリアは、観光拠点になっているローマン・バスやパンプ・ルームのある場所から一直線上にあります。

ローマン・バスの一部であるキングス&クィーンズ・バスの入口からつながる道は「バース・ストリート」と呼ばれ、キングス・バスとクロス・バスを行き来するために1791年に作られた温泉利用者のための道でした。スパに気を取られていると見落としそうになりますが、今でも歩道側には18世紀の面影を残すエレガントな柱が立ち並んでいます。
バースの街が一望できるルーフ・トップ・プール ⒸThermae Bath Spa

イギリスにある3つの源泉はバースにあり!

現在、イギリスにある3つの温泉の源泉は、すべてバースにあります。その3つとは、「キングス・スプリング」、「ヘトリング・スプリング」、「クロス・スプリング」です。

キングス・スプリングのお湯は「ローマン・バス」へ流れ、『サーメ・バース・スパ』では、ヘトリング・スプリングのお湯を「ニュー・ロイヤル・バス」に引いて、クロス・スプリングのお湯は「クロス・バス」で利用しています。
源泉の温度はクロス・スプリングが43.7度。ヘトリング・スプリングが45.3度ですが、公式には45度前後。とはいえ、実際に入るスパ内の4つの温泉プールはどれも35度前後。若干の温度調整はできるようですが、実際は、地上に湧き出たお湯をフィルターにかけて異物を取り除く過程で、自然に水温が下がってしまうのだそうです。
古代ローマの女神ミネルヴァの名前から名づけられたメイン温泉プール「ミネルヴァ・バス」ⒸThermae Bath Spa。
日本の温泉と比べると、かなりぬるく感じる35度前後の温泉プールですが、人間にとってリラックス効果の高い不感温度は33~36度とされています。健康には、熱すぎるお湯には入らないのが鉄則。ぬるい温泉に長く浸かるのがヨーロッパ流です。

典型的な日本の温泉をイメージしている人には、温泉施設というよりプールに近いイメージでしょう。水着で温泉プールに入るのも「温泉に浸かっている」感覚にはなれないかもしれませんね。

私がお薦めするのは、まず1階のミネルヴァ・バスに入り、次にスチーム・ルームでさらにカラダを温めてから、屋上の露天風呂ルーフ・プールへ行くというスタイルです。

特に、4階(イギリスでは3階)のスチーム・ルームの温度は45~50度に設定されていますので、こちらはぜひ利用してみてください。4つのガラスのブースに分かれたスチーム・ルームには、部屋毎にラベンダー、ジャスミン、ミント&ユーカリプタス、パインのアロマセラピー・オイルの香りが漂い、ドライ・サウナが苦手な人でも十分リラックスできます。
4つの香りが漂うアロマ・スチーム・ルーム ⒸThermae Bath Spa

2時間セッションにトリートメントを
追加するのがおススメ!

手軽にこの温泉施設を体験できるコースは、ニュー・ロイヤル・バスでの2時間セッション(£36)です。

そこに、マッサージなどのトリートメントを受ける時間を追加したり、レストラン&カフェで食事をしたりすると、その時間の分も延長してくれますので、きっちり2時間で退出しなくてはならない、といった心配も不要です。

2時間セッションには、タオル、スリッパ、バスローブも付いていますので、水着だけ持参すれば入場可能ですし、水着を持っていない場合は、購入できます。
カップルでも利用できるトリートメント・ルーム ⒸThermae Bath Spa
「サーメ・バース・スパ」のもう一つの楽しみは、トリートメントです。現在トリートメントの数は約40種。これに、パッケージプランの「スパ・パッケージ」10種が加わります。詳細は「サーメ・バース・スパ」のウェブサイト(http://www.thermaebathspa.com)のスパメニューをチェックしてみてください。

私はホットストーンを使ったマッサージやバンブーマッサージなど、ボディマッサージをお願いすることが多いのですが、じつは、このスパでのイチオシは、ホット・バス内で行われるシグネチャーマッサージ「ワツ」なのです。

「ワツ」は約30年前にカリフォルニアで誕生した施術で、リラックス効果の非常に高いトリートメント。指圧マッサージに由来するもので、施術はナチュラルな温泉水の中で行われます。耳も水に隠れて外からの音がシャットアウトされ、完全に水の中でセラピストにカラダを預ける形になりますので、心底リラックスできるといわれています。
水中で行う「ワツ」はストレスの多い癒されたい人におススメ!ⒸThermae Bath Spa
こうやって、温泉プールに入り、トリートメントを受けて、カフェで休憩したりすると、2時間はあっという間!できれば少なくとも3時間半は滞在したいと感じるはずです。カラダを温め血液循環を良くするぬるい温泉プールも、長く入りすぎると疲れてしまいますので、こまめに水を飲み、休憩や食事、トリートメントを挟んだりしながら過ごしましょう。

「サーメ・バース・スパ」は、イギリスの過去と未来が絶妙にミックスされた素晴らしい空間も魅力です。バースを訪れた際には、ぜひ時間をとってスパ体験にトライしてみてくださいね。

■ バースを知るためのミニ知識
<バースへのアクセス>
ロンドン・パディントン駅から列車で1時間20分。ほぼ30分おきに列車があるので、日帰り観光も可。できれば1泊してのんびり過ごしたい。
◯ サーメ・バース・スパ http://www.thermaebathspa.com
◯ バースの旅行情報 http://www.visitbath.co.uk
◯ 英国政府観光庁のサイト(日本語)http://www.visitbritain.com/jp
◯ ローマン・バス博物館 http://www.romanbaths.co.uk

読者の皆さんにお知らせ
2019年3月30日に、朝日カルチャーセンター横浜校にて『イギリス 湖水地方の秘密』というタイトルでお話をします。すでに湖水地方やピーターラビットの作者、ビアトリクス・ポターの話など、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、今回は、約四半世紀にわたって続いている、湖水地方と日本の関係などにも触れる予定です。この夏、湖水地方への旅を計画されている方へは旅のアドバイスもさせていただきます。お申し込みは以下からお願いします。
URL:www.asahiculture.jp

Photo&Text by 木谷朋子


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木谷 朋子

木谷 朋子

『留学ジャーナル』の編集者を経て2年間イギリスへ留学。帰国後はさまざまな国の文化や旅をテーマに、幅広い分野で取材・執筆・講演活動を行う。NHK文化センター横浜ランドマーク校で『大人のためのイギリス旅行』講座を通年で開講中。主な編著書:『ハレ旅ロンドン~湖水地方・コッツウォルズ』(朝日新聞出版)、『愛蔵版 パディントンベアの世界』(ジャパンタイムズ)、『I Love ピーターラビット』、『英語で楽しむピーターラビットの世界BOOK1、BOOK2』(ジャパンタイムズ)、『英国で一番美しい風景 湖水地方』(小学館)、『ロンドンと田舎町を訪ねるイギリス』(共著・トラベル・ジャーナル)、『イギリス留学』(三修社)ほか多数。

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