ロンドン近郊の貴族の館「クリブデン」 | BRITISH MADE

イギリス建築を愉しむ。 ロンドン近郊の貴族の館「クリブデン」

2019.01.18

イギリスには、実際に訪れて食事をしたり、さらに宿泊することが出来る貴族の館がいくつもあります。今回はロンドンからほど近い、お薦めの館を1つご紹介致します。ヒースロー空港から車で約30分で到着します。

Cliveden House

ご紹介するのは「Cliveden House(クリブデン・ハウス)」という旧貴族の館です。有名なマナーハウス・ホテルで、最近ではメーガン妃が挙式前夜にここに宿泊されたことでも話題になりました。ゲートから小道を進んで行くと、さらに大きな門柱が現れ、その先に迫力満点のイタリアネート・スタイル(連続するアーチなどイタリアのヴィラを思わせるようなデザイン)の建物が!
夕日に照らされたクリブデン・ハウスは、荘厳な姿とともに、温かみと美しさを併せ持ち、訪れる客を優しく魅了します。
16世紀に建てられたクリブデン・ハウスは、これまでの歴史の中で様々な名前で呼ばれてきました。Cliffden, Clifden, Cliefden, Clyveden, Cleveden, そして現在のClivedenです。名前の由来は、その立地からで、Chalk Cliffs(白亜の崖地)とテムズ川が流れているDene(渓谷)との造語からきています。第二代バッキンガム公爵が1666年に購入した建物で、その後も貴族達に住み継がれ、最後の家主であるアスター家が1893年~1967年の間住んでいました。1942年からはナショナルトラスト(歴史的建造物・景観の保護団体)が管理しており、素晴らしい館と庭が今も守られています。1969年~1983年まではなんと、アメリカのスタンフォード大学のイギリスキャンパスとして使用されたそうで、その後の1985年からはホテル会社に貸し出され、現在に至ります。現在のクリブデン・ハウスの建物内外は、イギリスの国会議事堂やハイクレア城を手掛けた建築家チャールズ・バリーによるものです。
宿泊した翌朝はこの部屋「テラス・ダイニングルーム」で朝食を取れます。ごく淡いブルーグリーン色をベースに、ゴールドのアクセントを巧みに効かせた、上品かつ上級なインテリアの部屋です。照明器具も含め、色使いに統一感のあるコーディネートで、非常に洗練された印象です。
左右対称を意識してデザインされた空間に、立派なクリスタルのシャンデリアと、大理石の暖炉がインテリアのフォーカルポイントにもなっています。大理石の暖炉は、アスター家が住んでいた1906年に設置されたそうです。壁にはパネリングが施されており、その上部の一つ一つには、照明のシェードと合わせた渋いグリーン色のシルクが貼られ、ミラーが設置されています。美しさに加えて部屋の広がりも感じさせる技が感じ取れます。カーテンは深いグリーン、ゴールド、ベージュ色を使い、さらに裏地はブルー色の生地でコーディネートされています。実はこのダイニングルームは、以前は濃いローズピンク色の塗装で仕上げられた部屋でしたが、2014年に現在の明るい空間に改装されました。
朝早く、ほぼ一番乗りだったこともあり、特等席と思われる窓辺の席へ案内されたのですが、解放された窓からは広大な庭を見下ろすことが出来、爽やかな朝の空気を感じながら、美味しい朝食をいただける、至福のひと時を朝から満喫しました。
朝食の後は、ゆっくりその他の部屋も見学しましょう!まずは玄関を入ってすぐの「グレート・ホール」。一見厳めしくも感じる木製パネリングに包まれた内装ですが、じっくり見ていくと、細やかな装飾や造作にも目が行き、あれこれ感嘆させられます。格子を組んだ奥行きのある天井と、深紅のヴェルヴェットをまとった家具達、そして歴史を感じさせるランプの数々や、絵画・甲冑等が私を当時の世界へ誘ってくれます。
こちらは反対側の写真です。奥に構える石の暖炉(1525年製)は、初代アスター子爵ウィリアム・ウォルドフ・アスターがフランス・バーガンディーの城で使用されていたものを1892年にパリで購入し、設置されたそうです。この部屋に一層の迫力を与えると同時に、唯一の白色で、明るく柔らかなアクセントにもなっています。
グレート・ホールから続く大階段も、木製パネリングと彫刻の重厚感が素晴らしいです。各親柱の上には、クリブデンのオーナー達の姿の彫刻が据えられています。
天井まで吹き抜けた開放感もダイナミックです。2階の回廊に設けられたアーチ型の木製装飾は、その丸みが愛らしいアクセントになっています。さらに上を見上げると1855年に描かれた天井画にも見惚れます。
ここはフランスの宮殿のような「フレンチ・ダイニングルーム」です。ルイ15世の愛人だったポンパドール夫人の城から移設したインテリアで、その煌びやかなロココ調の装飾にため息がもれます。
その他にもライブラリーやドローイング・ルームなど、マナーハウスならではの豪華でエレガントなインテリアが隅々まで堪能できます。
続いて、朝食時に眺めた庭園へ。階段を下り、庭園側から建物を見上げると、青空をバックに、また一段と美しくそびえ建つ外観に目を奪われます。
木々に囲まれた散策小道を進み、長い階段を下りて行くと、テムズ川へ出ることができ、のどかな自然に癒されます。ボートに乗ることが出来るのですが、なんと朝食やアフタヌーンティーを愉しみながらの優雅なテムズ川クルーズも予約可能です。チャンスがあれば是非お試し下さい。

Cliveden House
住所: Taplow, Berkshire, England SL6 0JF
URL:www.clivedenhouse.co.uk
Photo & Text by Koichi Obi

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小尾 光一

小尾 光一

工学院大学工学部建築学科卒業後、輸入住宅会社、リフォーム会社勤務を経て、「地面から生えたような」と形容されるイギリスの家に魅了されて渡英を繰り返し、デザイン・知識の習得とともにイギリス建材の開拓を重ね、2000年にコッツワールドを設立。イギリスであれば何処のエリアの建物も、そしてインテリアも実現するイギリス住宅専門の建築家として活動中。日英協会、イギリスを知る会所属。
著書「英国住宅に魅せられて」

ホームページ:
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ブログ:
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