2019.02.15

イギリス建築を愉しむ。 18世紀の4大巨匠が集結した大邸宅

今回ご紹介するのは、イングランド北部ウェスト・ヨークシャーのLeeds(リーズ)に建つ大邸宅です。その名は「Harewood House(ハーウッド・ハウス)」。現エリザベス女王の伯母にあたるメアリー妃が住んでいたことでも有名ですが、タイトルの通り、18世紀のイギリスを代表する4大巨匠に依頼して造り上げた、大変豪華で貴重な館なのです。

Harewood House

リーズ駅から車で30分の場所にあるハーウッド・ハウスは、ゲートから建物までの距離がかなりありますので、建物近くまで車で行かれることをお薦めします。
Harewood House こちらが入口。ここから建物までは約1.2kmもあります。
Harewood House
しばらく行くとパラディアン様式の大きな建物が見えてきます。これがハーウッド・ハウスです。この建物は初代ハーウッド男爵のエドウィン・ラッセルズが、1759年~1771年に建てたものです。
前述した、18世紀のイギリスを代表する4大巨匠とは・・・

ジョージアン様式(パラディアン様式)の建築家ジョン・カー(1723-1807)

外観は、ヨークの建築家John Carr(ジョン・カー)によってデザインされました。(内装で気に入られたロバート・アダムも一部手直しをしています。) 

ジョン・カーは、2018年8月にここに掲載させて戴いた「ダウントン・アビーのロケ地めぐり Part.3」内でご紹介した「Basildon Park(バジルドン・パーク)」をデザインした建築家でもあります。建て主エドウィンは、とても気難しいクライアントで、初めは建築家William Chambers(ウィリアム・チェンバーズ/ロンドン・サマセット・ハウスの建築家)に依頼したものの、計画案で終わり、当時北イングランドで名をはせていたジョン・カーに依頼し直したのです。ジョン・カーがデザインするパラディアン様式の外観は、敷地の広さにもよりますが、中央に大きな直方体のパラディアン要素(大きな三角のペディメントや列柱)が詰まった建築物を配置し、その左右に少し背の低い建築物をつなげ、最両端に背の高い建築物を配置して優雅さを出しました。この技法は、後のバジルドン・パークでも採用しています。
ベネチアン・ウィンドウ 両端にはこの時代に流行したベネチアン・ウィンドウ(中央がアーチでその左右に小さい窓)も取り入れられています。
ベネチアン・ウィンドウ (左)大きなペディメントと古代ギリシャを感じさせるコリント式の柱
(右)パラディアン様式でよく使われる、窓下の子柱付きのデザイン手摺り

ジョージアン様式(ネオクラシカル様式)の建築家ロバート・アダム(1728-1792)

内装は、スコットランドの建築家Robert Adam(ロバート・アダム)によって手掛けられました。優美なデザインが特徴的なアダムのインテリアですが、そのデザインバリエーションの豊富さにも驚かされます。沢山ある部屋のそれぞれが、色や雰囲気が違うばかりでなく、ドアの額縁装飾一つに至るまで全て異なり、どれも緻密で美しいのです。アダム特有の上品な淡色使いと繊細なディテールの相乗効果で、一部屋一部屋、つくづく見惚れてしまいます。
ジョージアン ジョージアン様式 ジョージアン様式 ジョージアン様式 ジョージアン様式 ジョージアン様式 ジョージアン様式 ジョージアン様式

ジョージアン様式の家具職人トーマス・チッペンデール(1718-1779)

家具は、ヨークシャーの家具職人Thomas Chippendale(トーマス・チッペンデール)が担当しました。チッペンデールは、洗練された曲線と上品な色使いを得意とし、18世紀半ばから活躍し、イギリス中で有名になりました。ロバート・アダムのセンスの影響もあり、アダムとはよく一緒に仕事をした仲です。ここハーウッド・ハウスでは、ロココ、ゴシック、シノワズリの要素を取り入れながら、ネオクラシカルのインテリアに調和するように念入りにデザインしました。テーブル、椅子のほかにキャビネットやベッド、鏡まで手掛けています。
トーマス・チッペンデール トーマス・チッペンデール トーマス・チッペンデール トーマス・チッペンデール

造園家ランスロット・(ケイパビリティ)・ブラウン(1716-1783)

ハーウッド・ハウスが凄いのは建物だけではありません。庭に対しても力を入れていて、風景式庭園の巨匠Lancelot “Capability” Brown(ランスロット・ケイパビリティ・ブラウン)に依頼しました。彼が生み出す風景式庭園とは、丘陵や池・湖などを、まるで自然に創り出された景観美のように魅せる手法でデザインした庭園のことを言います。ランスロットが手掛けた庭は170を超えると言われ、有名な庭園ではチャッツワース、ブレナム宮殿、ダウントン・アビーのロケ地のハイクレア城などがあります。

下の写真の奥に見える景色が、ランスロットによるハーウッドの敷地に限りなく広がる風景式庭園です。湖や小川を造ったり、水はけの悪い場所には土留めをして大量の樹木を植えたり、奥に向かって緩やかな丘を造成するなどして完成させました。さらに一番奥の地平線を樹木で覆い、どこまでも続いて見えるような錯覚を起こしています。ちなみに手前の整備された庭はザ・テラスと呼ばれるイタリア式ガーデンで、1840年代に造られたものです。
このようにして、4人の巨匠により、ハーウッド・ハウスは完成したのです。これほど贅沢な注文住宅&注文庭園を依頼した建物は他にありません。是非一度足を運んでみてはいかがでしょうか。


「おまけ」5人目の巨匠?

実は19世紀に入り、ハーウッド・ハウスはヴィクトリアン様式の建築家チャールズ・バリーによって一部改築・改装をしています。裏庭へ出るテラス式階段や、建物正面にあるペディメント(中央上部の三角の妻壁)を取り払い、屋上部分をBalustrade(バラストレード)と呼ぶ子柱付きの手摺りのようなデザインに変えました。前回ご紹介したクリブデン・ハウスの外観にも似ていますね。(同じ建築家です。)この外観デザインには賛否両論あり、ジョージアン様式のままが良かったという人もいれば、ヴィクトリアン様式が加わって華やかになったという人もいます。皆様はどう思われますか?
Harewood House
住所: Harewood, Leeds, England LS17 9LG
URL:harewood.org
Photo & Text by Koichi Obi

関連リンク
ロンドン近郊の貴族の館「クリブデン」

plofile
小尾 光一

小尾 光一

工学院大学工学部建築学科卒業後、輸入住宅会社、リフォーム会社勤務を経て、「地面から生えたような」と形容されるイギリスの家に魅了されて渡英を繰り返し、デザイン・知識の習得とともにイギリス建材の開拓を重ね、2000年にコッツワールドを設立。イギリスであれば何処のエリアの建物も、そしてインテリアも実現するイギリス住宅専門の建築家として活動中。日英協会、イギリスを知る会所属。
著書「英国住宅に魅せられて」

ホームページ:
www.cotsworld.com
ブログ:
cotsworld.blog136.fc2.com
Facebook:
www.facebook.com/cotsworldltd

小尾 光一さんの
記事一覧はこちら

RECOMMEND