Absolutely British ウェールズの端っこでサステナブルな夢を叫ぶ

2020.08.07

私たちは自由に、どこにでも行くことができる。住む場所だって自由に選べる。あなたがそこに暮らしたいと、望みさえすれば。

例えば1990年代のロンドン・ショーディッチから出発し、「それまでとは違う何か」を求め、家族6人でニュージーランドに移り住んだリンチ一家のように。

彼らは異国の地を楽しみながらも、そのことでかえって故郷の素晴らしさに気づき、ウェールズの大自然に帰ってグランピング・ファームをゼロから築き上げた。そして今も、決して覚めない夢を生き続けている。

ウェールズには、彼らの想いを受け入れる懐深さがあった。さらには現代の人間たちが住みやすいように快適さを加えることで、コミュニティを再構築できることを教えてくれた。
fforest 何世紀にも渡ってfforestと呼ばれてきた土地。
リンチ一家が手がけるそのラグジュアリーなグランピング・ファームを、fforest(フォレスト)と言う。

フェリーに乗ってしまえば3時間でアイルランドに到着する西ウェールズの端っこ。アイリッシュ海へと注ぐテイフィ川が流れる渓谷と自然保護区の間に位置するfforestは、200エーカー(東京ドーム17個分)におよぶ美しい大自然の中で文字通り手塩にかけて育まれ、今も成長を続けている。

イギリスでは7月に入ってロックダウンが大幅に緩和され、レストランやホテルも規制を守りつつ営業を再開できるようになった。リンチ一家も 7月半ばに営業再開を決めたのを機に、英国政府観光庁が主催するオンライン・インタビューに応えることにしたようだ。各国のジャーナリストがこの稀有な魅力を持つ宿泊施設に興味を寄せ、その話に耳を傾けた。

「ロックダウン中は空いた時間を利用してファームのマップを作っていたんだ。これまで、やろうとしてできていなかったことだよな?」

創業者のジェームズ・リンチさんは、共に施設を運営する息子のジャクソンさんとそう言い合った。

ジェームズさんは、もともと東ロンドンのショーディッチが現在のようにヒップな流行の発信地になるよりも、もっともっと前にお金のない若いクリエイターたちのためにスタジオやアパートメントをリノベするディベロッパーとして自分の才能をフルに発揮していた。彼はもともと美術大学を卒業し、グラフィック・デザインやショップ、展示会のデザインなどを手がけるクリエイターだったのだ。その手腕はfforestのシンプルかつスタイリッシュな設計にいかんなく反映されている。
グランピング キャンプと同じ醍醐味を、よりラグジュアリーな環境で楽しめるグランピングは、現代人がまさに必要としているカントリー・オアシスです。
一方、同じく美術大学を卒業したテキスタイル・アーティストであり(V&Aミュージアムに作品収蔵)絵本作家でもあるパートナー、ショーンさんは施設のデコレーションやオリジナルのテキスタイルも手がけている。fforestがある西ウェールズは彼女の母親が住む土地であり、4人の息子たちが子供の頃に毎夏を過ごし、彼らにとっても大好きな思い出の場所。一家がここに戻ってきた主な理由は、そこにもあるようだ。
Farm Dome Farm Domeと呼ばれるタイプ。ショーンさんが手がけたブランケットが美しい。
ウェールズ伝統由来のデザイン ブランケットやクッション ブランケットやクッションのデザインはウェールズ伝統のウール毛布のパターンにインスパイアされたものだとか。
家族は2004年にいったん西ウェールズの別荘に引っ越した。そこからたった20分ほど離れたところにある現在のファームが、一年ほど前から売りに出されていたことを知っていた彼ら。引っ越すと同時に迷わずその200エーカーの土地を購入したのだ。

その瞬間、現在のfforestファームを形づくっていく夢が生まれた。

そこは都会に住む人々が、いっときの間、自分たちが大自然の一部であることを思い出すエスケープ先。アウトドア生活を満喫するさまざまなアクティビティ。キャンプ・ファイヤーを囲み、暗闇の中で心を開いてふれあいを楽しむぜいたく。そのすべてを、現代的な快適さを損なわずに経験できる空間をクリエイトすること。

少しの間住んでいたニュージーランドでの暮らしぶりは、都市型からカントリー仕様に意識をシフトさせるのに大きく役立った。そしてジェームズさんが40年前、学生の頃に訪れ1年暮らした大阪にもインスパイアされた。たくさんのエキゾチックな食べ物はもちろん温泉も体験し、それが現在は「Onsen Dome」と呼ばれる野外バスタブ付きのグランピングとなって私たちを喜ばせている。
Onsen Dome Onsen Dome。fforestにはバスタブ付きの施設が少ないので、必要な人は事前に問い合わせてみてくださいね。
Onsen Dome こちらもOnsenタイプ。
杉のお風呂 杉のお風呂。
fforestは創業当初から類まれなサステナブル・ヴィジョンを持っていた先進的な施設でもある。

時間をかけてグランピング施設を作り上げていく中で、二酸化炭素排出量を削減するさまざまな方法を考え、ほとんどの建物に持続可能なナチュラル、リサイクル、リクレーム素材を使用している。また調理、暖房、照明、衛生設備の全てに、環境に配慮したものを取り込んでいるという。

農場内に佇んでいた200年前の古い母屋にもモダンな改装を施し、オークの梁を残しながら快適な空間へと蘇らせ、5寝室に最大14名が泊まれるホリデー施設になっている 。その他、敷地内には先ほど挙げたドーム・タイプの他に、もう少し簡易なベルテント、木の小屋を思わせるシャック・タイプやカタ・キャビン、そしてロッジ風の建物など好みや予算に合わせてバラエティに富んだスタイルを選ぶことができる。
Garden Shac こちらは3部屋あるGarden Shac。テント・タイプよりもしっかりとした施設をお好みの大家族やグループに。
ベッドルーム ガーデンを望む静かなベッドルーム。
杉の木のサウナ 杉の木のサウナ!
「Ty fforest」と呼ばれる母屋の居間 「Ty fforest」と呼ばれる母屋の居間。
fforestに到着してまず訪れるのが、ザ・ロッジ。ここは地元産の食材を使った朝食やディナーを楽しむ場所でもある。すぐそばにあるのはファームの中心でもある小さなパブ! この農場で一番古い建物を利用した石造りのパブは、ジェームズさん曰く「ファームのスピリット」なのだとのこと。子供達はいつもすぐに仲良くなって、大人もつられて仲良くなる。そんな絆を広げる本来のパブとしての機能を立派に果たしている。
パブ「The Bwthyn」 パブ「The Bwthyn」(ボシン=ウェールズ語でコテージという意味)は泊まり客が仲良くなる場所。結婚式場としても使われています!
シダー・バーン 結婚パーティーにも使われるシダー・バーン。自家菜園で採れた野菜や地元食材を堪能できます。
レストラン 食事のオプションはたくさん! 各施設にはセルフ・ケータリング設備もついているし、ハイシーズンならレストランで食事もできます。
滞在中は周辺の散策だけでなく、カヤック、水泳、サーフィン、シーカヤック、登山やトレッキングなどなど、大自然を楽しむアクティビティはたっぷり。またドライブ30分圏内にはミュージアムやマナーハウス、古城など文化スポットが点在して飽きがこないのだ。

「素晴らしい眺め、星空、鳥の声、揺れる野花……ここにはすべてがある。fforestはホテルでもなければゲストハウスでもない。ただスペースと呼ぶにふさわしい場所なんだ」とジェームズさん。五感を刺激し、ただ人間であることを楽しめるスペースがfforestなのだ、と自負しているように聞こえる。
テイフィ川 テイフィ川の清流はあなたのもの。
町の賑わいがちょっぴり恋しくなったら、 fforestから車でほんの10分の港町、カーディガンへ行ってみるといい。ここにはショーディッチ仕込みのクールなノリが感じられるforrest経営のピッツァリア「Pizzatipi」があり、旅行者だけでなく地元の人々にも直火の窯焼きピザが大人気だ。ジェームズさんたちがカーディガンに宿泊施設とピッツァリアを持ち込んだことで町は活気付き、今ではこのピザ・バーがコミュニティの中心となり、夏の週末には一日に300-400人が訪れると言うからすごい。

美しい川の辺りに佇むロケーション、また都会のアンビエンスを漂わせていることも手伝って、若者たちが大勢集まる。ジェームズさんは自分の事業で若い世代を雇い入れ、この業界で育てていければと思っているそうだ。

歴史を振り返れば、ウェールズのこの辺りは古くから港として栄えてきたことから、イングランドよりもむしろヨーロッパ大陸、そしてその先の世界へと開かれていた。

カーディガンは19世紀初頭に港湾の町としてピークを迎え、複数の造船所で何百という大型船が作られては登記され、輸出されていた。ちょうどその頃、進取の気性を持つウェールズの人々がこの町から新天地を求め、カナダへ向けて出港した歴史もある。そんなことを思い出させるように、現代人を惹きつける魅力的な文化が今また、この小さな町で育っている。そこから新しい何かが生まれそうな予感が、強く漂っている。
再オープンからすぐ予約が入り始め、一家は大忙し。
fforestの最新ロケーションはファームから少し離れた海沿いに登場している。また川沿いの別ロケーションにも新しいホテルを建設中だそうで、その成長はとどまるところを知らない。しかしfforestはただの宿泊施設ではない。各種イベントも頻繁に行われ、今後はさらにカルチャー・ハブのような存在になっていくのかもしれない。人が集まるところには、スパークが起こるものだ。

私が今回ジェームズさんの話を聞いて感銘を受けたのは、ご夫婦が何もない土地にゼロから今のビジョンを描き、実現していったことだ。その夢は、お二人のクリエイティブなバックグラウンドがあってこそビジネスとして成り立っているわけだが、根底にあるのは、出発からずっと掲げている理念、サステナビリティにある気がしてならない。エコ・ヴィレッジとでも言いたくなるビジョンだけれど、門はあらゆる人に開かれている。

多くの雇用を生み出すことで地元産業に貢献し、若い世代を育てていこうという意図も素晴らしく、また自然との共生をスタイリッシュに進めるビジネス・モデルとしても一流だ。地方を活性化していくヒントがそこにはたくさんある。ただ都会的なセンスを地方に持ち込むだけで、紋切り型の開発になることは避けなければならないが、こういった個性あるサステナブルな開発なら受け入れる側としても歓迎したくなるに違いない。

持続可能な開発は、より多くの人を幸せにする。今後成長していくビジネスはそういうものだと信じたいし、賢い旅行者ならそういった施設を選んでいくことになるのだろう。今この時期、洗練されたカントリー・エスケープを考えている皆にとっても、fforestは完璧な休暇先なのだ。
行ってみたい!

関連ウェブサイト
fforest
fforest farm
fforest coast
fforest town
英国政府観光庁
ウェールズ政府 観光ページ
Text by Mayu Ekuni


plofile
江國まゆ

江國まゆ

ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。

http://www.absolute-london.co.uk

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