映画『ボヘミアン・ラプソディ』公開!! フレディの光と陰を描いた音楽映画の傑作。 | BRITISH MADE

BM RECORDS TOKYOへようこそ 映画『ボヘミアン・ラプソディ』公開!!

2018.11.08

フレディの光と陰を描いた音楽映画の傑作

今回は、11月9日(金)公開の映画『ボヘミアン・ラプソディ』をご紹介します。これはクイーンのボーカリストにして不世出のアーティスト、フレディ・マーキュリーの半生を描いた映画です。
クイーンというバンドをある程度知っている方、もしくはファンであれば、もうこの予告編だけで込み上げるものがあるはず。ご覧の通り、本編ではクイーンが歩んだ足跡とフレディの光と陰がドラマチックに描かれています。

フレデイを演じるのはテレビドラマ「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」や映画『ナイト ミュージアム』のラミ・マレック。ほか3人のクイーンのメンバーも含めて、非常に高い再現度で演じています。
また、メンバーのブライアン・メイとロジャー・テイラーが音楽総指揮を務めているので、肝心の音楽のリアリティも文句なし。資料提供から衣装、楽器の貸し出しまで、全編に渡ってサポートしています。その威力は本編のオープニング、つまりおなじみ20世紀フォックスのロゴタイトルから最高に心憎い遊び心によって発揮されています。どうかお聴き逃しのないように(笑)。
そもそもクイーンは1970年、イギリスで結成されました。“スマイル”というバンドに所属していたブライアンとロジャーがフレディと出会い、クイーンが誕生しました。映画では、何と当時のボーカリストが参加して、劇中で使用する音源のために“スマイル”が50年ぶりのレコーディングを行っています。
追ってベースのジョン・ディーコンが加入して、不動のラインナップが誕生しました。
ザンジバルで生まれたインド出身の青年“ファルーク・バルサラ”は、その生い立ちや容姿に対するコンプレックスを跳ね除けるように“フレディ・マーキュリー”を名乗り、クイーンは73年、ファーストアルバム『戦慄の王女』をリリースしました。
しかしイギリスのメディアからは過小評価が続きます。バンドがようやくブレイクの兆しを見せたのは74年のサードアルバム『シアー・ハート・アタック』収録の「キラー・クイーン」全英2位というヒットからでした。映画ではレコード会社との契約からデビュー、そしてこのブレイクの時期までのバンドの様子も描かれています。
クイーンの人気は世界中でどこよりも早くこの日本で火がつきました。その辺りは映画では省略されていますが、ともかく彼らは世界各地をツアーして、めきめきと観客動員を伸ばていきます。そして75年10月には、4枚目のアルバム『オペラ座の夜』収録の「ボヘミアン・ラプソディ」が全英9週連続1位の大ヒットを記録します。6分超えという当時としては異例の長尺だった曲にも関わらず、です。
その結果、4枚目のアルバム『オペラ座の夜』は初の全英1位を獲得、バンドの黄金期はここから始まりました。
この「ボヘミアン・ラプソディ」、そして77年のシングル「ウィー・ウィル・ロック・ユー」など、劇中ではクイーンのレコーディングの様子も丁寧に再現されています。24トラックのマルチ・トラック・レコーダーを駆使した「ボヘミアン・ラプソディ」のレコーディングシーンの素晴らしさは、名曲誕生の瞬間を目撃しているかのような気分になること受け合いですし、「ウィー・ウィル・ロック・ユー」誕生のきっかけにもゾクッとさせられます。
こうした栄光の間で揺れ動くフレディの姿が丹念に描かれています。女性と恋に落ちるものの、途中で自身がゲイであると気付くフレディ。当時は今日のようなLGBTといった呼称や理解もまだ存在しない世界。成功と富に渦巻く人間模様のなか、彼は自身のパーソナル・マネージャーと関係を持ち、徐々にデカダンなライフスタイルへと堕ちていきます。さらにはバンド内の衝突やメディアとの対立の果てに、その孤独を一層と深めていくことになります。
こうしたフレデイの繊細な心の機微を、主演のラミ・マレックは丁寧に演じています。歯や鼻を特殊メイクで近づけ、オリジナルメンバーの協力のもと、途方もないボーカルのトレーニングやパフォーマンスのリハーサルを積んだそうです。

一度は散り散りになったクイーンは、フレディの“ある告白”から再びひとつになり、本編は1985年に行われた20世紀最大のチャリティコンサート『ライブ・エイド』における伝説のパフォーマンスへと向かっていきます。クライマックスとなるこのシーン、会場だったウェンブリー・スタジアムのステージは、空軍基地を使って再現され、小道具の細部に至るまでが再現されています。
このライブエイドにおける本家クイーンのパフォーマンス、過去にDVD収録もされていて、フル尺映像もYouTubeに多数あがっていますが、敢えてここではアップを控えます。
21分に及ぶ圧巻のパフォーマンスは、当時のステージを知らない読者のかたこそ、まずはぜひとも劇場で体験してください!! ちなみに自分はこのクライマックスでボロ泣きでした。

キャストやディテールの再現度が高いと、どうしてもある程度バンドを知っている音楽リスナーや熱烈なファンは、映画に多くを求めがちです。当然のことながらこの映画でクイーンの全てが描かれているわけではありません。
史実とは異なる描写や、敢えて真実を伏せたような演出も見受けられるし、ロック史における横の繋がり(例えば「アンダー・プレッシャー」におけるデヴィッド・ボウイとか)もほぼ省略されています。
しかし、フレディとバンドの物語にフォーカスを絞った構成だからこそ、出自と容姿のコンプレックスやセクシャリティ、そして孤独と闘った「人間 フレディ・マーキュリーとは何者だったのか?」という物語の輪郭が明確に立ち上ってくるのです。さらに前述の『ライブ・エイド』によって、クイーンというバンドが音楽シーンに残した功績の一端も描かれています。
初出のライブバージョンや『ライブ・エイド』の本家パフォーマンスを収録した『クイーン ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』(ユニバーサル)もすでにリリースされています。「クイーンは(CMなどを通して)2、3曲しか知らない」という人こそ、むしろ観てくれたら、もっと彼らの音楽が聴きたくなる映画であると断言します。
だから、まずはぜひとも劇場へ。ここまで書いといて何ですが(苦笑)、予習なんてしなくても間違いなく楽しめる音楽映画の傑作です。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』は11月9日(金)よりロードショーです。ではまた!


Text by Uchida Masaki

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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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