BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” ヨーロッパ満喫日記 カーディフ篇

2019.11.28

以前スコットランドを旅行した際、英国すべての国を見たいという衝動に駆られた。それが今回ウェールズを訪れた経緯だ。ウェールズと聞いてすぐに思い浮かぶのはフットボールのライアン・ギグス、俳優のアンソニー・ホプキンス、作家のロアルド・ダールだ。人名とはすぐにリンクするが、正直なところそれ以外で記憶に残る要素は少ない。旅行書ではイングランドと一括りにされて巻末に追いやられていることが多く、旅番組でフォーカスされる機会は稀である。実際、英国に造詣が深い方にウェールズについて尋ねてみたが、訪れたことがある方はわずかだった。情報量が少なくベールに包まれている点にも惹かれたのである。

我々は、オックスフォードコッツウォルズを経由して、ウェールズ南部にある首都カーディフに入った。まずは、年季が入った建物と現代的な建物が混合して賑わうクイーンストリートを抜け、街のランドマークであるカーディフ城を訪れた。城の歴史は古く、基礎ができたのはおよそ2000年前のローマ時代まで遡る。その後ノルマン人に征服され、1091〜1216年にかけてノーマン・キープと呼ばれる砦が建立された。さらに紆余曲折を経てビュート家の手に渡り、カーディフ市に寄贈されたのである。天井もない廃墟のようなノーマン・キープに登ると街を一望することができる。周辺にはいくつかの高層ビルが建っているが、基本的に高い建物はなく、ミレニアムプロジェクトで建立されたミレニアムスタジアムの存在が際立っている。砦を降りる際、城郭内に立派な館があることに気付いた。これは建築家ウィリアム・バージェスによって建立された館だ。ウィリアム・バージェスと、彼のパトロンでもあったビュート公爵の芸術意欲の高さは尋常ではなかったらしく、膨大な予算と時間が注ぎ込まれた。館内には幾多のエッセンスが散りばめられており、中でも壮麗なアラブの間と、気品溢れる図書室に感銘を受けた。
カーディフ城 カーディフ城 ウェールズの街 ウェールズ
我々はカーディフ城を後にし、繁華街へ足を向けた。繁華街で目を引いたのが、点在している瀟洒なアーケードだ。最大の特徴は、まっすぐ伸びる訳ではなく、時折蛇行する風変わりな構造だ。まるでモグラの巣のようだ。重ねて、このアーケードは二階建てになっており、奥行きのある開放的な空間に感じられた。喧騒な表通りとは異なり、静かな雰囲気が心地良かった。だが、アーケード内には空き店舗がかなり見られ、場所によっては故郷のシャッター商店街に近い印象さえ覚えた。訪れたタイミングが悪かったのか、年中そうなのかはわからないが、どこもかしこも工事だらけだった。ちなみにモーガンアーケードの中に残る”SpillersRecords”は世界最古のレコード屋だ。
モーガンアーケード モーガンアーケード
今まで様々な国を訪れてきたが、これほど掴み難く形容し難い国はウェールズが初めてだ。例えば、エディンバラやフィレンツェのように街自体が芸術的な訳ではなく、湖水地方やコッツウォルズのように自然と調和した場所という訳でもない。カーディフには、デパートやショッピングセンターもあり、何一つ不便なことはない。観光で訪れる街というよりも生活を営むための街のように感じられた。この適度に便利な街に煙に巻かれてしまったのかもしれない。コインパーキングの使い方がわからずに困惑していたら、すぐに手を差し伸べてくれたウェールズ人。何か物を尋ねても親切に対応してくれる人情に厚い人ばかりだった。時間をかけて生活すればこの街の良さが実感できるに違いない。カーディフを掘り下げるのは余りにも滞在期間が短すぎたのである。そういえば、楽しみにしていたウェールズ料理は、口にすることも、目にすることさえできなかった。何にせよ、カーディフをはじめウェールズにはまた戻って来なければならない理由ができたような気がする。敬慕する沢木耕太郎氏の言葉を拝借するならば、”自分の気持ちを残した街”になった。ホテルに戻り部屋のデスクでこの原稿を執筆していると、「キエーーーっっ!!」という奇声が聞こえた。何事かと振り返ったら、4ヶ月になる息子が初めて寝返りをうった。
Photo&Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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